12月22・29日号紙面:楽しく読めて聖書が伝わる 聖書ファンタジー『イスルイン物語』
楽しく読めて聖書が伝わる 聖書ファンタジー『イスルイン物語』
2018年11月に出版された、聖書を題材にしたファンタジー小説『イスルイン物語─預言されし王─』(F・エフライム著、エシュルン出版)=写真左=。ファンタジー小説でありながら、聖書の世界観を伝える内容だとして、牧師や宣教師から注目を集めている。このファンタジー小説をぜひ多くの人に読んでもらいたいとエシュルン出版社を設立したキリスト伝道隊国内宣教師の大塩英子さんに、作者との出会いやこの小説の魅力、出版社を立ち上げるまでの経緯や出版方法について話を聞いた。
物語では架空の世界を舞台にエルフ、ドワーフ、オークといった種族が登場。エルフとはいにしえの時代より神の契約を受け継ぐ種族で、物語の時代ではイスルイン・エルフを指す。ドワーフはいにしえの時代からエルフに敵対してきた種族。オークは神の怒りを買いイスルイン・エルフによって多くは倒されたが、少数が生き残り、混血となりながらその数を増やしてきた種族だ。
物語には、慰めの町に住むシリオンとアンディア、慰めの町に住む取税人ギル=アント、大国ローディスから北部と東部を任された領主ヴォルフ卿など、個性的な人物が多数登場する。洗礼者やメシアも登場する。
読み始めてしばらくすると、不思議な感覚を覚え始めた。「あれ、このくだりって、福音書のあの物語だな。シリオンはペテロでアンディアはアンデレ、洗礼者はバプテスマのヨハネだな」と。
実は『イスルイン物語』は、ファンタジーの形を取った聖書物語だ。メシアが登場し、十二弟子を連れて伝道を続けていく。そして、世界の人々を贖うために、自らの命をささげる。作者は福音書のストーリーをファンタジーの世界で忠実に再現しているのだ。
『イスルイン物語』を読んだ牧師、宣教師からは「イエスの公生涯をほぼそのまま、エルフたちの世界で再現している」、「ファンタジーであることを踏まえた上での小説版の聖書入門書としても楽しめる」、「天地万物を造られた方がおられ、読者を招いてくださっていることを伝えるというぶれない力が作品全体にみなぎっている」などの感想が寄せられ、この本を推薦している。
大塩さんもこの作品を読んで感動した一人だ。作者との出会いは2015年5月、ある教会のバイブルスタディーでのこと。その時、作者は、「伝道のために小説を書いている。そのためにも聖書を詳細に学んでいる」と話していた。さらに伝道のためにビジネスまで手放したことを聞き、大塩さんは驚いた。「話すうちに、聖書を忠実に学んでいる誠実なクリスチャンという感じが伝わってきたので、この人が書く小説をぜひ読んでみたいと思いました」
それから2年後の17年9月、大塩さんは「書くことを通して宣教したい」という願いが与えられ、作家で全国三浦綾子読書会講師の遠藤優子さんから文章指導を受けることに。受けてみて「書くことって、ものすごいエネルギーがいるのだと思いました」。
そんな時、小説を書いているという作者のことを思いだした。聞いてみると「今、5冊目を書いている」という。「わずか2年の間に5冊も作品を書いたということに、本当に驚きました」
しばらくして、製本された『イスルイン物語』の原作が2冊届いた。早速読んでみて、すぐに引き込まれた。「私は宣教師なのでツールには関心はありますが、こういうアプローチって初めてでした。一般の方向けに書いたというけれど、クリスチャンが読んでも面白いと思いました」
作者は作品の意図をこう語った。「聖書をそのまま読めたらいいけれど、時系列になっていないので読みにくい。それはもったいない。楽しく読めて、かつ聖書の世界観というベースが伝わったらいいなと。聖書理解に役立つのなら、と思って書きました」
大塩さんは作者に「出版社に持ち込んだのですか」と聞いてみた。すると、一般の出版社では「聖書色が強い。聖書ファンタジーというジャンルがない」、キリスト教出版社でも「長編でシリーズ物はなかなか難しい」とのことだった。「それで、この作品が出版され、宣教のために用いられるように、作者に協力するようになりました」
この作品を広く世に送り出したいと出版社を設立 エシュルン出版 大塩英子さん
『イスルイン物語』を何とか出版できないかと思案する中、作者から「こんな出版形態がありますよ」との提案があった。それがPOD(プリント・オンデマンド)出版だ。
PODでは、必要な時に必要な冊数のみ印刷できる。普通は初版1万刷といった形で印刷するが、PODでは注文があれば印刷し発送するというスタイルなので、1冊からでも印刷でき、在庫リスクが全くない。出版可能なPDFデータがあれば、絶版本でも印刷が可能だ。PODを活用した新しい出版社を立ち上げ、日本最大のネット書店アマゾンでも販売できるというサービスがあることも知った。
そんな中、作者から「ぜひ、英子さんが出版社を立ち上げてほしい」との要請があった。「自分が出版社を始めても結局、自分の本だけになる。自分以外のいい本、内容が良いと認知されても出版が難しい本がきっとたくさんある。英子さんはいろんな人と出会えるから、ニーズのある本をたくさん救済できると思う。英子さんが出版社をしたほうがいい」
こうして18年8月、大塩さんはエシュルン出版を設立。『イスルイン物語』の出版がスタートした。「エシュルン」とはイザヤ書44章2節に出てくるイスラエルに対する別称で、「神に愛された特別な存在」を意味するという。
作者のF・エフライム氏は、日本在住のクリスチャンで、年齢、性別、国籍などは明かさず、覆面作家として活動する。「小説を通して聖書を伝えたい。神様の御心のままに行うこと。著者がイエス様より前に出ることなく、多くの人に読んでもらうこと」が、作者の願いだからだ。多言語への翻訳、映画化、ドラマ化、マンガ化など、様々な形で『イスルイン物語』が展開していくことも願っており、大塩さんも作者の思いを受け止めている。
『イスルイン物語』はシリーズで出版される。現在、モーセやヨシュアの生涯などモーセ五書をベースにしたファンタジー小説の出版を準備中だ。読者からも「とっても読みやすくて、続きが読みたくなる」、「主の愛のご真実がじわーっとわかりました。お友だちにも、この本をプレゼントしようと思います」などの感想が寄せられている。
『イスルイン物語─預言されし王─』(1、2)はアマゾン及びエシュルン出版のウェブサイトで販売している。1は千980円税込、2は2千90円税込。Kindle版(電子書籍)もある。
購入希望者はURL https://jeshurun.net/から。問合せはTel050・5329・9908、エシュルン出版まで。【中田 朗】