【新型コロナ関連】医療崩壊危機のスペイン 医療資源配分にトリアージ 従事者には感謝の拍手も

私は普段、医療通訳という業務に携わっており、毎日のように病院の中に入って日本人の患者とスペイン人医師の間で通訳業務をしている。3月13日まではいつも通りの忙しさだったが、14日にスペインで警戒事態宣言が出され、外出禁止令が発令されてからは自宅で残務処理をして過ごしながら、必要に応じ電話で通訳をしている。
こちらの外出禁止令は法令であり、自粛要請ではない。従って①自宅から最も近い店まで、食糧品や必需品を買いに行く、②病院へ通院に行く、③許可された仕事に従事するために移動している、④自宅に直行している、⑤身体障害者や年配者など、サポートを必要とする人のところへの往復路、⑥銀行など、金融機関への往復路、③不可抗力的な事情による外出、のどれかでなければ外出できない。州政府発行の用紙を印刷し、どれかにチェックを入れ、自分の氏名や身分証明書番号、署名も入れて持ち歩き、警察に尋問されたら提示しなくてはいけない。これ以外で許可されているのは犬の散歩だけで、自宅から100mまでの距離に抑えるようにと言われている。それでも移動する人たちは理由を聞かれ、不要不急でないと自宅に帰るよう指示される。反抗したり身分証明を偽ったりすると、100ユーロから3万ユーロまでの罰金が課されるので、街は静まり返っている。
スペインで新型コロナウイルス(以下ウイルス)のケースが出始めたのは2月末頃だが、3月1日にクラシコと呼ばれる非常に重要なサッカー対戦があった。8日には「女性の日の大規模デモ」 が実施され、かなりの人がこの大規模デモに参加。この日のマドリードは中心街がすべて人で埋め尽くされたと言っても過言ではないほどだった。感染者が激増し始めたのはその翌日からだ。その5日後、警戒事態宣言と外出禁止令が発令された。このことから、群衆が集まる場所での感染急増は明らかだ。
感染して病院に行くと、通常は公立病院がこうした法定伝染病を担当するが、今は市内のすべての大病院はいっぱいで、近くの敷地(体育館や見本市会場など)に数百床のベッドを敷き詰めて病院拡張部分とした。だが、この拡張部分は病院ではないため、酸素吸入の設備が必須なICUがない。それでマドリードで最大5千500床を置ける見本市会場の即席医療施設に、何十本ものパイプを縦横に300メートル張り巡らし、千500床(うちICUは150床)で酸素吸入できるシステムを3日で完成し、ウイルス対応を可能にした。定年退職者も含めその道の職人たちを総動員し、ボランティアでできあがったシステムで、3日で仕上がったのは驚異的だった。
しかし、ウイルスの検査キットや医師、看護師用の防護服、マスクなどは依然として不足している。ユニフォームや使用済み防護服も、院内に処分も洗濯もされずに山積みになっている。清掃スタッフによる必死の仕事も追いつかない。防護服も不足しているため清掃スタッフがウイルスに感染してしまい、手が足りないところへ更にスタッフが減っているからだ。現在、医療スタッフも清掃スタッフも、防護服不足の中、ウイルスにまみれながら、体力と気力の限界で仕事を続けている。
車の製造工場が現在、酸素吸入器の製造に急きょ着手しており、服飾メーカーが防護服やマスクを縫い、スポーツ用品メーカー(Decathlon)が潜水用マスクを酸素吸入用に販売を停止して寄付したりといった、多くの寄付が寄せられている。
ここまで努力を重ねても、物資も人も足りないので、助かる見込みの患者さんに医療器具を優先し、重篤な患者さんが出るとトリアージをして、助かる見込みがない患者さんには酸素吸入をしない判断をしなければならなくなった。それでも80代、90代の高齢者がウイルスを克服し退院するケースもあり、退院時には医療スタッフ皆が拍手をして見送っている。
一方、入院して手を尽くしても亡くなる方は毎日数百人規模で発生している。悲しいのは患者が死を迎える時、そばにいて手を握ることも、付き添うこともできず、一人で息絶えなければいけないこと。遺品は遺族に渡らず、遺体と共に火葬しなければならない。集会禁止令のため葬儀も出せず、火葬の順番待ちが日増しに長く、お墓もいっぱいで、埋葬に立ち会えるのも3人まで。お互い1m以上間隔を空けるので、支え合うこともできない。お墓に聖職者と家族二人が離れて立ち、ひっそり涙を流すしかない。
増え続ける遺体をどうすべきかも国家レベルの問題だった。考え出されたのが、できたばかりのアイススケート場を遺体安置所にすること。この政府案をスペイン国民は名案として受け入れている。医療スタッフも政府も、大切な命が失われた遺体を一つひとつ丁重に扱いたい。でも現実は棺の製造すら間に合わない。袋に入れた遺体をフォークリフトで遺体安置用のバスに移動させていた様子を見た人が泣きながら撮影してSNSにアップロードしていた。「これが現実なんだ。みんな外出するな! 感染しないでくれ! 死なないでくれ!」 と泣きながら。
この壮絶な状況の中、疲弊しき切った医療スタッフが並んで清掃スタッフに拍手を送るシーンが毎日のようにあり、ウイルスに打ち勝って退院が許可された人には看護師たちが並んで拍手をし、腕を組んで歩いて見送ってあげている。毎晩8時には、国中の窓から一斉に拍手とブラボーが湧き上がってくる。ウイルス感染が始まった当初から毎日実施されている、市民から医療スタッフ全員への感謝と励ましの拍手だ。
ようやく感染者数の伸びが緩くなってきた。このまま終息へと向うといいが、今後は南半球が感染国になり、おそらく北半球以上の数の死者が出るだろう。日本もこれからだ。どの町にも千床レベルの入院施設を準備し、遺体安置所を用意しておく必要がある。全世界がウイルスから解放される日はまだまだ遠いが、その日が来た時、今とは全く違う時代を生きることになろう。神様が存在してくださることだけは変わらない。
今回のことを神からのメッセージと受け取る方は多いと思う。実際、地球環境改善を叫びつつ、自国の経済発展を優先して何も手を打てずにいた世界が、ウイルスによってすべての経済活動をストップせざるを得ず、一方で大気汚染、水質汚濁、騒音妨害などといった地球環境が一気に改善しているのだから無理もない。何を大切にし生きるべきなのか垣間見ている今、私たちはこの感染症が終息した時、どう生きるかを考えさせられている。そこに真実の神との対話が始まることを祈る。