戦後福音派支えた聖書図書刊行会の出版活動を振り返る 聖書教育と宣教協力の情熱

ヘンリー・H・ハーレー著『聖書ハンドブック』、E・ケアンズ著『基督教全史』ほか、ヘンリー・シーセン著『新約聖書緒論』、エドワード・ヤング著『旧約聖書緒論』など、現在まで読み継がれ、参照される信仰書、神学書を刊行してきた聖書図書刊行会。1951年に仙台で始まったその働きは、母体となった保守バプテスト教会のグループにとどまらず、戦後の福音派全体の神学教育、信徒教育に貢献した。保守バプテスト同盟は所属する教職者、神学生向けの講座「同盟アーカイブズシリーズ」の第1回を10月15日に開催し、聖書図書刊行会を振り返った。【高橋良知】

写真=『聖書ハンドブック』初版を手にする川崎氏

「同盟アーカイブズシリーズ」は、設立50年を超える保守バプテスト同同盟が、多様化する教会の在り方の中で、その核心的な霊的本流を確認し、一致と未来を模索する試み。聖書図書刊行会は、保守バプテスト同盟を生み出した、米国の保守バプテスト外国伝道協会から派遣されたモーゼス・サビナ宣教師が始めた働きだ。運営を担った保守バプテスト宣教団の文書委員会は宣教師主導の働きだったが、一人日本人の牧師がメンバーに加わっていた。その一人が1971~98年まで担当した川崎廣牧師だった。「敗戦直後の日本は、リベラル神学や新正統主義の影響が大きく、聖書信仰に立った日本語で読める神学的良書が少なかった。すでにいのちのことば社などが文書伝道の働きをしていたが、当時は、伝道のための入門書に重点が置かれていた。サビナ宣教師は、様々な出版社にかけあったが実現にいたらず、結局保守バプテスト宣教団自らその働きを担うことになった」と話した。
出版活動の資金基盤となったのが、米国の一人の信徒が海外の文書活動のためにささげた献金、通称「ミスターペイジファンド」。「これが日本では、聖書図書刊行会、聖書図書通信聖書学校、聖書図書センターの働きに用いられた」
初期の作品として知られるのが、『聖書ハンドブック』。「キリスト教会で話題になり、初版は1万部を刷った。当時の教会の規模を考えると冒険だが、半年で売り切れ、翌年にはさらに5千部増刷、数年で2万4、5千部に達したと言う。刊行会ののちの重要な資金源にもなりました」
その後、『新約聖書緒論』『旧約聖書緒論』など神学校の教科書のほか、ラジオ伝道放送の応答者のための通信講座のテキストを作成。また通信教育の神学校聖書図書通信聖書学校を開講し、テキストもペーパーバックで分冊にするなどして手に入れやすくした。
聖書図書刊行会の転機は、70年代のサビナ宣教師の帰国。「サビナ先生の熱情に支えられていた聖書図書刊行会だったが、その後何人か継承したけれども、なかなか経営面も難しかった。何年も在庫を抱えるということがあった。円とドルのレートが変動し、海外資金をあてにした働きも難しくなった」と言う。そのころ日本のキリスト教出版も整備が進み、71年には、流通、出版の業務をいのちのことば社に委託、その後働きを91年に移管した。
聖書図書刊行会の働きを振り返り、「保守バプテスト教会だけではなく、日本のキリスト教会全体。その働きが一信徒の献金が基盤になったことを覚えたい」と述べた。
今回のセミナーのもう一人の講師、山口陽一氏(東京基督教大学学長)が、同大学の図書館や国立国会図書館の目録を調べたところ、聖書図書刊行会の出版物は98点あった。「53年に聖書図書通信聖書学校、56年に仙台夜間神学校、63年にバプテスト聖書神学校、64年に保守バプテスト同盟が設立されたが、それ以前に45点の出版で、神学校の教科書がほぼすべてそろっていた。これは驚くべきこと」と語った。
書籍の著者もバプテストにこだわらず福音派の代表的な著者が選ばれていた。初期の本は、新教出版社編集部が担い、新教出版社でも同時に販売していた。翻訳においては日本カルヴィニスト協会や日本基督神学校の教師などが担う本もあった。いのちのことば社のオンデマンド復刊リパブックスシリーズの半数近くが聖書図書刊行会の本であることも指摘し、「長く求められる本が造られていた」と振り返った。
最後に、「戦後の福音主義に立つ神学校教育は、聖書図書刊行会の恩恵に少なからず浴した。そのことで聖書図書刊行会は日本宣教に貢献した。翻訳などでの広範な協力が読者のみならず、出版に携わる者も養い育てた」と評価。「出版物の約半数は、聖書講解など直接聖書にかかわるもの。活字離れの時代でも、私たちの信仰の土台は聖書。聖書図書刊行会の書物をICTを生かした神学教育と積極的伝道に生かしたい。保守バプテストのいち早い聖書通信講座の試み、同盟を超えた宣教協力の視野は、現代にそのまま生かされると思われるスピリットだ」とまとめた。
三人目の講師、いのちのことば社社長の岩本信一氏は、現代における文書、メディア伝道の展望を語った。全体での質疑応答では、電子書籍の展開や聖書神学教育にかかわる書籍への期待と課題、ペイジファンドが一人の信徒だけではなく、後に多くの信徒の献金で支えらたこと、などが確認された。