インサイド・ニュース●無牧ミニストリーズ−その後 過疎地の教会に牧師来た 北海道・酪農の町/中標津キリスト教会 「残された時間、教会に仕えたい」定年後の願い実り 牧師求む教会 働きたい牧師 出会う機会作りがカギ

キリスト教会の教勢減衰傾向に伴い、無牧教会、教会閉鎖の問題が指摘される中、お茶の水クリスチャン・センター(OCC、村上宣道理事長)は、牧師を探している教会と奉仕の場を求めている教職者をつなぐ「OCC無牧ミニストリーズ」を展開してきた(2019年11月24日号12月8日号で紹介)。昨年その働きが実を結び、北海道の教会に長崎県から牧師が赴任した。今回の招聘について、自身も地方の無牧教会に赴任し、OCC無牧ミニストリーズのコーディネーターを務める栗﨑路氏(茨城県幸町キリスト教会牧師)から届いたレポートを掲載する。

北海道の東端、知床半島の南に位置する中標津町(なかしべつちょう)。人口約2万3千人を有するこの町の主産業は酪農で、冬にはマイナス20度になることもある。そこに日本メノナイト中標津キリスト教会はある。牧師がいない、いわゆる無牧状態に喘(あえ)いでいたこの教会に昨年秋、念願の牧師がやって来た。
今回赴任した梶原親膳(ちかよし)牧師(72歳)は長崎県出身。北海道中標津とは縁もゆかりもない。鹿児島のバプテスト教会の牧師を定年後、故郷の佐世保に移り、そこで余生を過ごすつもりであった。思い描いた定年後の生活を手放す今回の決断に家族は驚いたが、「もう一度、キリストの体なる教会で、みことばを伝えたい」「残された時間を形あるキリストの教会で、キリストと教会とに仕えたい」という強い願いがあった。
牧師招聘を願い続けた教会と、もう一度教会で仕えたいと願った牧師を結びつける仲介をしたのがOCC無牧ミニストリーズである。日本のキリスト教会の無牧化は全国で進んでいる。信徒の高齢化とそれに伴う後継者不足、ますます大きくなる地域格差はそれに拍車をかけ、回復の兆しは依然見えにくい。そのような現状を少しでも変えたいと、OCCの後援を受けて2017年から活動してきたこの働きは、無牧教会と牧師をつなぐことを目指している。

中標津キリスト教会

教会と牧師を結ぶ情報が少ない

無牧になった教会は多くの場合、どのように後任を探せばよいのか分からない。中標津キリスト教会がそうであったように、知り合いや神学校に声をかけ、あとは祈って待つしかない。その一方で、困っている教会を助けたいという思いを持つ牧師たちも確かにいる。梶原牧師のように、定年後もう一度教会に仕えたいと思う牧師も少なくない。
ただ問題は、お互いの姿が見えていないこと。知り合う機会・情報が圧倒的に不足している。この問題を解決するため、無牧ミニストリーズは教会と牧師が出会う場所を提供している。簡単な流れはこうである。
①教会と牧師はウェブサイトから必要な情報を登録(牧師の場合推薦状が必要)②会員ページに情報が掲載される③希望する相手に連絡し、招聘のプロセスを進める。
また無牧ミニストリーズは、招聘に伴って起こりやすい問題を予防するため情報を発信し、現在全国から様々な背景を持つ35人の牧師と、11の教会が登録している。
中標津キリスト教会は、知り合いの牧師からこの働きを紹介され登録に至った。情報を見た梶原牧師が、メールでコンタクトを取り、昨年7月末からの2週間、短期滞在。
その間、梶原牧師は講壇に立ち、信徒との交わりを持ち、互いに感触を確かめてからの招聘となった。

引退教職者の可能性とミニストリーの信頼度

北海道中標津という地域性からすると、牧師謝儀や子育てのことなどで若い教職者は二の足を踏むかもしれない。しかし定年後なら可能性がある。その意味でも、今回の招聘は大きな意味を持つと考える。地方教会に希望を与え、宣教の新たな可能性をも示している。地方の過疎化は加速しており、地域格差は拡大し続け、そしてそれは福音を聞く機会の格差にも直結している。地方の宣教はどうしても後回しにされてしまう。教会に牧師家族を支えるだけの経済的余裕がない場合は特にそうである。だからこそ、今後ますます引退した先生方の力が必要になってくる。たとえ短期間であったとしても、次の牧師が与えられるまでの教会を整える中継ぎ的な働きであったとしても、それは教会にとって、またその地域全体にとって計り知れない祝福になると信じる。梶原氏の再献身は中標津キリスト教会にとってだけでなく、他の無牧教会にも大きな希望を与えるものではないだろうか。
さらに、今回教会が無牧ミニストリーズに登録したきっかけが、知り合いの牧師の紹介であったという点も大きい。ダイレクトメールや広告等でこの働きの周知には努めているが、無牧で苦しんでいるはずの教会の反応は少ない。それはこのミニストリーの信頼性に不安があるからではないか。だからこそ今回のように口コミで広がっていく必要がある。働きを知った人々が無牧教会に知らせていただくことが大切である。クリスチャン新聞読者の方々をはじめ、みなさまのご協力をお願いしたい。無牧化はきっと、みんなで協力すれば解決できる問題なのだから。

無牧化は食い止められる

中標津キリスト教会の皆さんと梶原牧師(中央)

OCC無牧ミニストリーズの事務を担当し、今回の仲介に直接携わった阿部頼義氏(神奈川県グレースガーデン・チャーチ牧師)はこのように言う。「長崎県に住む牧師と北海道の無牧教会が結び合わされたことは、当ミニストリーの存在意義を象徴するケースだと感じている。マッチングの背後で神様が働いておられることを感じずにはいられなかった。今後もこのようなマッチングが生まれ、それぞれの地域に恵みの福音が広がることを祈っている」
OCC副理事長の大嶋重徳氏はこのように言う。「ついに喜びの知らせが届きました。無牧ミニストリーズを始めて以来の祈りが実を結びました。北海道中標津の教会と長崎に住む牧師の互いの献身がつながり、教会に牧師の着任を迎えることができました。すべての教会には宣教の始まりがあり、ささげられた祈り、苦難をも乗り越えた奉仕の数々があります。その歴史を絶やさないために、精いっぱいOCC無牧ミニストリーズは今後も仕えていきたいと願っています。今後ともこの働きのために祈り、また登録してくださる方々が増やされていきますようにお祈りください」
「神様のなさることは機に応じて敏であり、意に即した事柄はすべて主イエス・キリストが準備されておられると実感させられ、またその祈りに答えてくださるイエス様に感謝の気持ちでいっぱい」|そう言うのは、中標津キリスト教会の教会員代表笹谷芳夫氏だ。「この機会を用意していただいていたOCC無牧ミニストリーズの存在意義はさらに一層増すであろうことを確信している」
無牧化は止めることができるのか。まだかすかではあるが、希望は見え始めているのかもしれない。

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