2月7日号紙面:【関西だより】落語で賀川豊彦物語
【関西だより】福音落語家ゴスペル亭パウロさん 「賀川豊彦とハル物語」披露 「あれこそ隣人愛や」
昨年12月5日に神戸市中央区の賀川記念館で、社会福祉法人イエス団賀川記念館・天国屋カフェクリスマス特別企画の福音落語会が開かれ、アマチュア福音落語家のゴスペル亭パウロさん(本名=小笠原浩一さん)が、賀川豊彦をテーマにした落語を披露した。
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賀川豊彦の足跡を伝える書籍や映像は数々あっても、落語で語られるのは初めて。小笠原さんは、福音落語はもちろん、自身の持つ防災士の資格を活かした防災落語、平和や人権、振り込め詐欺など社会問題をテーマにした創作落語にも意欲的に取り組む中で、若い頃大きな影響を受けた敬愛する賀川の人生を多くの人に伝えたいと「賀川豊彦とハル物語」という落語にした。ハルとは、賀川の妻。
「一人は万人のために、万人は一人のために」。この精神を体現した人として、学生時代に賀川の人柄と生涯に感銘を受けた小笠原さんは、大学の卒業論文のテーマに「賀川豊彦と協同組合」を書いた。さらに、賀川が「生協の父」であるということから、就職も地元和歌山の生協にしたほど。
賀川の功績は計り知れない。神戸の大スラム街の伝道と隣保活動に献身し、協同組合運動、労働運動などの草分けとなり、国内外で宣教活動を行い、各地で平和を訴えた。生涯で316冊著作し、その約20億円にもなる収益はすべて救済と伝道の活動資金となった。ノーベル平和賞には4度、ノーベル文学賞にもノミネートされた。
これほどの人と信仰を、教会関係者すら知らない人が多いことに、小笠原さんは歯がゆい思いを抱いてきた。以前、賀川記念館前館長で賀川の孫の督明さんから、賀川豊彦のことを落語にしてくれないかと言われたことがある。残念ながら督明さんは2014年に亡くなり、それが小笠原さんへの遺言となった。
福音落語会の司会を務めた神戸イエス団教会の上内鏡子牧師は「12月24日は賀川豊彦がこの地に自らを“クリスマスプレゼント”として献げようとスタートした日です。パウロさんは今日のクリスマス企画で、前館長の遺志を実行してくださいました」と、紹介した。
小笠原さんは落語の中で関東大震災で支援活動を行った賀川の姿に触れ「あれこそ隣人愛や」と語る人々のことばに、その人生を集約した。賀川は1960年に召天。最期のことばは「教会を強くしてください、日本を救ってください、世界に平和を」という祈りだった。生涯を共にした妻のハルは、賀川亡き後その遺志を継いで社会福祉活動に尽力し、81年に名誉都民として表彰された。
上内牧師は「クリスマスにふさわしい温かい落語でした。賀川豊彦については、神戸ですら知らない人が多くなりましたが、今小学校4年生の副読本に載っていて、市内の小学校から賀川記念館の見学に来てくれます」と、喜んでいた。
小笠原さんは「賀川の歩みはまさに神の元での働きだということが、自分自身がクリスチャンになってから迫ってきました」と、この新作にさらに磨きをかけていきたいと話していた。