[レビュー2]パウロの喜び、悲しみ、生き生きと 『小説パウロ キリストから世界を託された男』評・三澤隆男
ヒルデガルトさんはドイツで放送劇作家として活躍、福音的な立場から伝記や小説を書いてこられた方で、本書は24年前に出版、今も読み継がれていると聞いています。
回心から死に至るまでの足跡と思想が新約聖書に記されている人物は、パウロだけです。彼は小アジアとギリシャ世界を巡り歩き、多くの教会を産み、その育成のために数々の書簡を残しました。
著者の本書執筆の意図を、「神様との出会いは人を変えて行く。その過程でパウロが抱えたであろう喜び、孤独、悲しみ…。その生涯をどんな思いで歩み続けたのか、それを書いてみたかった」(470頁)と紹介していますが、その意図通りの作品だと言えます。
パウロは自分の旅を、投獄やむち打ち、川や海や荒野の難、同胞と異邦人からの難、宿もなく飢え渇き、諸教会への心づかいの旅であったと回顧し(Ⅱコリント11章)、その苦難の旅を全うできたのは「私を初めから愛し続け給うた主」の助けによると証言しています(462頁、使徒の働き26章22節参考)。
試練と恵みの旅は、パウロに自分は弱くもろい「土の器」に過ぎないが、その弱いところにこそ神が力を現わしてくださることを教え、神の愛と力を経験し、人を赦し愛することを学ばせます。
私が読んでいる中に、パウロの世界に誘い込まれているように思えたのは、筆者の篤(あつ)い信仰と小説家としての力量からでしょう。パウロ書簡からの多くの聖句が、彼の置かれた折々の状況にふさわしく引用され、彼がそんな状況の時にこの言葉が与えられたのかと合点して聖句を味わえます。
読み終えた後で、パウロ書簡や使徒の働きを読みますと、この小説での場面が浮かび、新たな発見ができそうです。人名だけが聖書に出ている人々が、本書には個性豊かに登場して活躍する様子も、興味をそそられました。(評・三澤隆男=日本バプテスト・バイブル・フェローシップ船橋聖書バプテスト教会 柏聖書教会牧師)
『小説パウロ キリストから世界を託された男』
ヒルデガルト堀江著、 山形由美・堀江通旦訳
いのちのことば社、2,640円税、A5判
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