3月14日号紙面:『香港の民主化運動と信教の自由』刊行記念会開催 海外からの″友情”が励ましに
『香港の民主化運動と信教の自由』刊行記念会開催 海外からの″友情”が励ましに
混迷の続く香港の状況を踏まえ、日本で出版された『香港の民主化運動と信教の自由』(教文館)の刊行記念会が、2月26日にオンラインで開催された。約130人が参加し、香港情勢とともに、キリスト教会の背景が語られ、一般のメディアからも注目を集めた。
はじめに同書で「推薦のことば」を寄せた平野克己氏(日基教団・代田教会牧師)が「友情の中でこの本が生まれた」と紹介。「日本からも香港を見守っている。あなたたちは孤独ではないと伝えたい」と話した。
続いて同書編訳者の松谷曄介(ようすけ)氏(金城学院大学宗教主事・准教授、日基教団牧師)と、同書寄稿者で香港政治が専門の倉田徹氏(立教大学法学部教授)の対談があった。
倉田氏は「香港の自由そのものが全面的な攻撃の対象となった。長く香港を見てきた人間だが、想像つかなかった」と戸惑う。松谷氏も「こんなに早くとは思わなかった。一国二制度が終わる2047年を心配していたが、まだ先と思っていた」と話した。
さらに倉田氏は「経済の自由と国際ネットワークに支えられた香港の価値を中国も認めていたからこそ、一国二制度が保たれていた。それが『信教の自由』をテーマにする本が出版されるほどに自由が脅かされた。それ自体がニュース。それほど中国が香港の自由を恐れているということ」と危惧した。
松谷氏も「聖書に基づいて信念を語るべき牧師たちが、自己抑制、自己検閲する事態が深刻。信徒からすれば『なぜ牧師は大事なことを言わないのか』と思うだろう。一方、発言したとしても、『なぜ牧師は政治のことを語るのだ』と言われる。牧師たちの心労は相当なものだ」と思いはかった。
他方、倉田氏は希望的観測も示す。「中国は『欧米型民主主義は、中国には当てはまらない』と主張していた。ところが中国がやろうとしているのは、中国式のやり方を香港に当てはめること。中国式のやり方を外にもっていってもうまくいくことはないだろう。それが香港で明らかになるのでは」と話した。松谷氏も「様々な論考を翻訳して、香港にはこれだけ希望の声が響いているのだということを感じた。日本にいる者にとっても励まされる」と述べた。
香港からは、中国/香港キリスト教史が専門の邢福増(イン・フクツァン)氏(香港中文大学崇基学院神学院教授)が登壇。政治と宗教の関係について中国と香港を比較し、4点にまとめて語った。
一つ目は「政府と宗教」。中国には宗教を管理する部門が存在するが、香港にはない。「将来的に政府が宗教を管理する部門をつくるかどうか注視したい」と述べた。
二つ目は「政府と教会」。中国では、宗教は必ず政府に従うという関係。香港では、政府と宗教の関係はパートナー関係。教会は教育、社会福祉などで重要な役割を担ってきた。「ただし最近は香港でも愛国教育が強調されている」と警戒した。
三つ目は「教会と政治」。中国における政教分離は、「宗教は個人的なものであり、政治に干渉してはならない」というもの。一方で政策への完全な支持を求める。香港の教会では公共の場での役割を重視し、社会運動を支持する人たちもいる。だが「最近は踏み越えてはいけない『レッドライン』が増えた。言論・思想の自由に影響している」と述べた。
四つ目は「宗教と政治」。「クリスチャンの中にも政治的問題について様々な立場の人がおり、分断がある。様々な立場にどう対応し、牧会するか課題」と話した。
質疑応答の中で、松谷氏は「香港の外に仲間がいると大きな支えになるのでは。海外勢力との結託と見られないよう気を付けつつ、政治ではない民間交流をキリスト教の枠で広げれば、香港を支えられる」と期待した。
倉田氏は「欧米は『中国が経済発展したら、自由や権利が重視され民主化するだろう』と考えた。一方、中国は、『いずれ強くなったら、西側の民主主義国家をはねかえせる』と考えた。考える方向は西欧と中国で逆だった」と述べた。さらに「キリスト者が中国内でも増えている。社会も近代化、西洋化している。中国としては、共産主義国家に人々をつなぎとめるために、伝統重視や外国からの侵略の危機感をあおるかたちで団結しようとしている」とも語った。
邢氏は移民問題に触れ、「コロナ禍が収まれば、香港を離れる人が増えるのでは」と話した。
閉会の祈りに先立ち、朝岡勝氏(同盟基督・徳丸町キリスト教会牧師)は牧師の祖父が戦時中投獄されたことに触れ、「私たちも置かれている状況の中で、信教の自由がどこまで分かっているか。香港社会を見つめて自分たちの在り方も見つめていきたい」と勧めた。
集会後、松谷氏、倉田氏は一般メディアからの質問に答え、米国バイデン政権の影響、世界の教会が中国に配慮している状況、香港の選挙や3月に開かれる全人代(中国の立法議会)の動向に注意を払った。松谷氏は、青年の受け皿としての教会の役割について答え、「傷ついた若者の悩みを聞き、祈る場を設け、政治的立場が違う人とも和解し、赦し合うことについても粘り強く発信する必要がある」と語った。【高橋良知】