“聴く”メディアが転回 「クラブハウス」手軽さ 倫理手探り コロナ禍で求められた「生のつながり」

コロナ禍で人とのつながりが希薄になる中、SNSや動画通信が活用された。一方で、神経を使う「言葉尻」や視覚・聴覚を拘束する「動画」に疲れを覚える向きもある。そんな中、音声メディアに注目が集まる。音声SNS「クラブハウス」(以下クラハ)が今年1月末から日本で広まった。敷居の低さゆえの注意点もあるが、この動向には「聴く」ことの本質も見える。クラハ利用者や各音声メディア担当者に聞いた。【高橋良知】

クラハでは、声のみのシンプルな機能で、その場限りの会話が可能。モデレーター(司会)となって様々なトピックの「ルーム」(部屋)を作成したり、気軽にルームに出入りする聴衆にもなれる。モデレーターの許可で会話への参加も可能だ。

大澤恵太さん(フリーメソ・桜井聖愛教会牧師)は「文章力や動画編集の力がなくても気軽に始められる。そばで人が聞いていることを前提に話すので、発言に責任をもちやすい」。単立・吹田聖書福音教会員の小松佑多さんも「声には人柄が出て共感しやすい」と魅力を語る。妹尾光樹さん(JFGA・純福音成田教会牧師)は「著名な人、定評ある人でなくても、個人で『聖会』を開ける。上手にしゃべれなくてもその人の人格で伝わる。クラハは差別や誹謗中傷を禁じて、実名での参加、招待制。そこで安全を保障し、利用者も言葉に気を付けている印象だ」と語った。

クリスチャンのルームは、礼拝、賛美、悩み相談、神学的な討論など様々だ。大澤さんは「クリスチャンではない方々が福音に触れる機会となり、他のSNSと連携し、教会への動線をつくることもできる」と期待する。これまでは日曜早朝礼拝、若手3人牧師の雑談トーク、使徒信条の学びなどのルームを開設してきた。妹尾さんも毎朝の礼拝を継続したところ、20~40人が参加し、1割はクリスチャンではない人だという。小松さんもルームを立ち上げ、次々とクリスチャンが集まり、証しをし、盛り上がれたことを喜ぶ。2月の福島沖地震では、声を合わせて祈れた。「コロナ禍で失われた雑談の機会も魅力だ」と言う。

 

教会土台に社会的責任

課題は、異端や立場の違う人との接触。小松さんのルームに、ある時異端の人が入り、会話を始めた。何とかその場は収まったが、「危険だな」と思った。同時に、クリスチャンでも福音主義に立たない人たちの議論に葛藤を覚えた。そのような問題を受け、大澤さんと共に、「福音主義クリスチャン」限定の「みんなで考えよう、クリスチャンにとってのクラハの倫理」というルームを2月23日に開いた。

大澤さんは、レジュメをまとめて発表。強調したのは、押しつけではなく互いを思いやりながら、クリスチャンならではの倫理を築いていくこと。聖書を誤りのない神の言葉、信仰と生活における唯一の規範と信じる福音主義信仰の土台の確認を提案した。異端・カルトの活発化や、飲酒喫煙など信仰のスタイルの違いという現実を踏まえつつ、「戦うべきは人ではない」(エペソ6章12節参照)と戒め、相手をおとしめないことを勧めた。

時間や場所を超えた交流が広がった。妹尾さんは「場所や時間を守って礼拝するという在り方がコロナ禍で根本的に崩れた。重要なのは、礼拝をする姿勢。今対応ができれば、アフターコロナでも宣教をしっかりできると思う」と展望する。

大澤さんは、「教会が大事にしてきた人の温かさ、交わりを覚えたい。それはキリストが人となって来られたインパクトを覚えること。SNSで傷つく人たちがいる。その社会的現実についても教会は責任をもって向き合いたい」。

小松さんは「超教派は、自らが所属する地域教会の土台があってこそ。混乱には注意しつつ、クラハで受けた恵みを教会に持ち帰り、教会で受けた恵みをクラハで分かち合う循環になれば、キリストのからだが成長するのでは」と期待した。

「古くて新しい」「最終的に“人”」

ラジオ放送「世の光」などを担当する太平洋放送協会(PBA)細川開さんは、音声メディアの魅力について「見えないこと」「ながら聴き」「距離の近さ」を挙げた。「話し手は聴き手を、聴き手は話し手や内容を想像できる。自動車の運転中や、家事をしながらでも聞くことができる。話し手を近くに感じ、温かみがあります」

メディア動向について、「SNSは自分の好みの情報を選ぶ。ラジオは局やパーソナリティーで選び、好みでない情報も入るが、発見がある。既存のメディアがSNSと組み合わせる時代。70周年を迎えるPBAも有効なメディアを追求し選びたい。様々な団体と協力して聖書チャンネル『BRIDGE』を開設した。良い語り手、作り手が発信する場としても使ってもらえたら」と願う。「ラジオもSNSもただ発信するだけでは伝わらない。最終的には魅力や信頼が伝わる“人”の存在が重要」とも話した。

スマホ、PC版の「聴くドラマ聖書」を制作した日本G&M文化財団の当初のビジョンは「みんなで一緒に聴くこと」であり、「聴くドラマ聖書」を使った「PRSバイブルクラブ」、信仰書をオーディオブックで聴く「JSUブッククラブ」を紹介している。同財団PR担当の倉田麗さんは、「古くて新しい聖書の親しみ方」と言う。「初代教会の頃は、字を読めない人も多く、聖書はみんなで聴くものでした」

「聴くドラマ聖書」制作担当の内野聖子さんは、「声の遠近、人物の雰囲気など臨場感を大事にした」と話す。「『読むのは難しくても音声ならば通読できた』という声があった。通勤など移動の間に聴く人もいます」

患者や職員のために「聴くドラマ聖書」を放送で流すキリスト教系病院もある。「コロナ禍で、オンラインのバイブルクラブやブッククラブがつながりや集まりのきっかけになれば」と倉田さんは期待する。