信仰の目で金融投資を考える(上)高橋秀典 30年ぶりの株価高値と詩篇35篇

 株式投資の健全な理解を

「株」と聞いて身構える人、自分とは関係ないと聞き流す人。反応は様々だろうが、いずれの人にも、コロナウイルス感染拡大後の株価の上昇という話は、耳に届いているに違いない。この世界で起こっている経済状況の中で、具体的に何かをする前に、信仰者としての基本的な「目」を考えたい。10年間の証券会社勤務を経て、現在は立川福音自由教会の牧師を務める高橋秀典氏の寄稿を2回にわたって掲載する。

「私のたましいに言ってください。『わたしがあなたの救いだ』と」(詩篇35篇3節)

日経平均株価が約30年ぶりに3万円台を回復したということが最近話題になりました。人の痛みに敏感な優しい信仰者は、「新型コロナ不況で多くの人々が苦しんでいるのに、株価ばかりが上がって、この国はどうなっているのか…」と言っているかもしれません。しかし、一方で、「信仰者とは、神ご自身が『わたしがあなたの救いだ』と語ってくださることに信頼して、危険を冒す自由を持っている者のことだ」と言えるのかもしれません。

たとえば、あなたが地球温暖化の問題に大きな関心を持っておられるなら、その課題に取り組んでいる新興企業を捜し出して、資金的な応援をするというのは極めて効果的な働きになります。それができなくても、株式を上場している企業の中で、その課題に積極的に取り組んでいる会社を選んで、その株を取得するという動きが大きく広がれば、その会社は目先の損得勘定を超えて長期的な技術開発投資をすることができるようになります。

多くの日本人は、「株をやる」というような表現で株式投資を、ギャンブルと同じ次元で考えます。しかし、株式投資の基本とは、自分がほれ込んだ会社に、危険を覚悟でお金を投資するという極めて健全な経済活動に他なりません。

この30年あまり日本経済が低迷状態を続けている中で、米国では次々と新しい産業や企業が誕生してきました。GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)などと言われる大企業が独占的な地位を築いていると言われますが、これらの会社は誕生(または再生)してから20年も経っていません。リスクを取って次から次と新しいビジネスを米国は生み出してきました。それを支える投資家たちがいたのです。

最近の日本の株価上昇が、30年余り前のバブル相場の再現のように言われることがありますが、この間、ニューヨークダウ平均株価は約12倍になっていることをご存じでしょうか?(30年前のニューヨークダウ平均株価は2千500ドルから2千700ドル、それが現在は3万2千ドルに近い水準)

日本はこの間、バブル崩壊後の後遺症に悩まされて、多くの企業も内部留保ばかりを貯めてきました。また個人も「株にはこりごり…」と言った感じで、その有り余ったお金が、ゆうちょ銀行などに流れ、それが日本の巨大な財政赤字(GDPの約2・7倍)を支えています。

確かに現在は、経済の実態からかけ離れて株価が上がっているように見えてはいますが、これは株価が異常に安く評価されていたことの反動高ということもできます。もちろん、牧師である筆者が、株価上昇予測を宣伝して、信仰者に証券会社を訪ねることを勧める気は毛頭ありません。株式売買手数料で稼ぐ会社と投資家の利害は相反することが、多くあるからです(拙著『職場と信仰』参照)。

株価の短期的な動きなど、どのような専門家も予測などはできません。しかし、現在、リスク資産と言われる株式投資ほど安定的な利回りを確保できる投資対象はないとも言えます。現在の上場会社の平均利回りは約2%前後を推移しています。これはたとえば複数銘柄の分散投資によって、合計で1千万円相当の株式資産を保有している人は、年間20万円の配当を安定的に得られていることを意味します。ところが、銀行の定期預金の場合は、同額を預けた人の利息はたったの200円にしかなりません。それでは、日本政府と日銀が、2%のインフレ率を目指していることを考えれば、かなりの確率で実質資産は目減りすることになります。

一方、株価は長期的にはインフレに比例して上がります。また株価は短期的に下がることがあっても、健全な会社であるならば、ほぼ確実にいつか高値を更新します。

つまり、世界的な標準で見ても、日本の株は最も安全な投資対象になっているのです。それが証拠に、この30年間、外国人による日本株の保有比率が約5%から30%を超えるまでになっています。一方で金融機関の日本株保有比率は約40%から20%に下がってきていますが、これは株式持ち合いによる系列化の慣習が衰退したためと思われます。そして最近は、日本の個人投資家が株式市場にようやく積極的に入ってきて、株価を押し上げているという構造が見られます。いわゆる、1980年台後半に証券会社の主導で、一般企業までが「財テク」などと称して、株式投資に走ったバブル状態とは大きく異なります。(つづく)