夫を亡くし孫娘・渚と暮らす絹子(左) © 2020“A Garden of Camellias” film partners

葉山の海を望む高台に京から移築した古民家で暮らしてきた家族の物語。外国で他界した長女の娘を引き取った老夫婦。だが、その夫も先立ち孫娘との静かな暮らしに降ってわいた立ち退き話。平穏な日々にたつ波風は、祖母と孫、暮らしてきた家族の思い出を揺さぶる。愛着のある家と四季の移ろいを愛でる花々に丹精されている庭の佇まいは、ここに生きる人たちの心に育まれてきた生あるものへの慈しみと儚さを味わい深く語っている。

夫と語らい、子どもたちを育み、
孫娘との暮らしに安らぐ古民家と庭

ある春の日。絹子(富司純子)の夫の四十九日の法要が行われた。東京で暮らしている娘・陶子(鈴木京香)は、母が姉の娘・渚(シム・ウンギョン)と二人暮らしになることや相続税の申告期限が10か月しかないことなどを気にかける。法要の後、東京のマンションで一緒に暮らそうと勧めるが、絹子には長年家族で暮らした思い出深いこの家から離れる気持ちはないと言う。翌朝、よく丹精された庭を眺めて孫娘と近づく夏の気配を感じながら朝食を摂る。

激しい雷雨に藤棚の花が散り、梅雨が訪れた頃、絹子の飾り棚に母親・葉子の懐かしいアルバムを見つけた渚。絹子がきたのに気づき仕舞おうとする渚。絹子は、駆け落ちして外国に行った葉子だが、いつか帰って来ると思っていたと話してそのアルバムを渚に託す。
渚が帰宅すると玄関に見慣れない男物の靴がある。税理士の黄(チャン・チェン)が相続税の件で訪ねてきていた。絹子は、相続税を納めるためにはこの家を手放すほかに手立てがないという黄の話しに愕然とする。渚は、絹子の悲痛な表情に胸を痛める。

新盆を迎え夫の友人・幸三(清水紘治)が訪ねてきた。夫との思い出の曲「Try to Remember」のレコードをかけ、若いころの思い出話に花が咲く。久しぶりの愉しいひとときに笑顔する祖母を見て安堵する渚。だが、幸三を見送るため玄関先で語り合っていた絹子が突然倒れ込み病院に担ぎ込まれた。幸三からの知らせを受けて駆けつけた陶子。幸い、大事には至らず自宅静養で済むことから幸三はそのまま病院から帰宅したという。秋の音連れが感じられるころ、黄が不動産業の戸倉(田辺誠一)を下見に案内してきた。二階の部屋で静養する絹子は顔合わせはせず、渚に一階だけを案内させる。間もなく、何かを決意したかのように、家の中を片付け始めていく絹子。

久しぶりに娘・陶子(左)との語らう絹子の和らぎをみて渚もはしゃぎ気味に © 2020“A Garden of Camellias” film partners

古民家の情景と庭の生きもの
の温もりを包む静謐な映像美

本作は、写真家・上田義彦(多摩美術大学グラフィックデザイン科教授)の初監督作品。上田監督は、15年前に近所に見覚えのない空き地に気づき、そこに建っていた古い家や暮らしていたであろうあったこともない人を想い、不思議な喪失感に駆られて稿を起こした。誰しもが心のどこかに思い当たるような懐かしさから紡がれた物語は、写真家の監督作品にふさわしい美しいショットに秘められた静かな時の流れに浸してくれる。

要を得た言葉少ない対話。手水鉢に泳ぐ金魚を愛おしむ渚、四季折々の変わり目を告げる庭の草木、京都から移築した明治時代の古民家の装いや調度。木造土壁の家が呼吸する息遣いさえ感じられる映像美。夫を看取り、語り合い子育てしてきた住まいと庭を手放せるか。外国生まれの孫娘は自分が他界した後、どのように道を拓いていくのだろうか。様々な思いの中で自らの身終いに想いを馳せる齢を自覚する絹子。生きとし生けるものの美しさ、時の流れの中に在ることの儚さが演者の佇まいを印象深く捉えている。その在るがままの美しさ儚さを観照して奥に潜む大切なものを語り掛けてくる。【遠山清一】

監督・脚本・撮影:上田義彦 2020年/128分/日本/映倫:G/ 配給:ビターズ・エンド 2021年4月9日[金]シネスイッチ銀座ほか全国順次公開。
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*AWARD*
2020年:第42回モスクワ国際映画祭正式出品作。第2回江陵国際映画祭オープニング作品。