シリア紛争10年 ワールド・ビジョンがレポート 1・2兆米ドル損失 子どもの平均寿命13年短く

世界の子どもを支援する国際NGОワールド・ビジョン(WV)は、3月15日でシリア紛争開始から10年を迎えるのに際し、フロンティア・エコノミックス社と共同で、レポート「Too high a price to pay:the cost of conflict for Syria’s children(高すぎる代償:紛争の犠牲となるシリアの子どもたち)」を作成、発表した。(レポート全文〔英文〕はURLhttps://www.wvi.org/syria10

紛争が10年続くシリアの子ども(写真提供=ワールド・ビジョン・ジャパン)

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同レポートでは、特にシリアの子どもたちに焦点を当て、10年間の紛争がシリアの経済成長(GDPベース)と人的資産に与えた影響を調査。その結果、この紛争ですべての世代が生きる価値を失ったと述べ、紛争が終結したとしても、子どもたちは教育と健康の喪失という形で犠牲になるため、国の復興と経済成長を支えられないことを示している。
同レポートの概要は以下の通り。▽経済損失は、1・2兆米ドルを超えると推定、▽紛争が今日終わったとしても、そのコストは2035年までにわたり、現在の金額で1・7兆米ドルの規模まで集積され続ける、▽シリアの子どもたちの平均寿命は13年短くなった。
アンドリュー・モーリーWV総裁は「世界はこの紛争を10年間も放置してきた。子どもたちから基本的権利を奪い、子どもたちが神様から与えられた可能性を開花させ、豊かないのちを生きていくことを妨げてきた」と語る。

シリア国内で避難生活をおくる子どもたち(写真提供=ワールド・ビジョン・ジャパン)

ヨハン・ムージWVシリア・レスポンス・ディレクターは、こう話す。「毎日子どもたちは寒い中、空腹の状態でやってくる。彼らは、自分が目撃し経験したことでひどく苦しんでいる。5、6歳の子どもは、音を識別してあらゆる種類の爆弾の名前を言える一方、自分の名前すら書けないケースがままある。私たちは、彼らをこの暴力の連鎖の中に閉じ込めたままにしておけない。手遅れになる前に、紛争と子どもへの暴力のまん延を止めなければならない」
同レポートの経済調査結果には、シリア、レバノン、ヨルダンの約400人のシリアの子どもと若年成人を対象にしたWVの調査結果が反映されており、紛争の莫大な人的コストが明らかになっている。武装勢力によって徴用された子どもの約82%が直接戦闘に動員され、うち25%は15歳未満。紛争が始まって以来、推定5万5千人の子どもたちが殺害され、一部の子どもたちは処刑や拷問によって命を落とした。その結果、彼らの平均寿命は13年も縮んだ。シリア北西部でのWVの調査では、調査対象となったすべての少女がレイプや性的暴行の被害に遭うことを恐れながら生きていることが判明。インタビューを受けたすべての子どもたちは〝平和〟を訴えたという。
同レポートは、シリア紛争に対する包括的な政治的解決策を伴う平和が、さらなる経済的及び人的コストを回避する唯一の方法だと提示し、それがなければシリアの子どもたちは、大人たちが引き起こした失敗の代償を払い続けなければならないとする。モーリー総裁は「永続的な平和こそが今、シリアの子どもたちにとって唯一の実行可能な解決策だ。国際社会は、これを実現するために全力を尽くすという道義的責任を負っている。経済的コストは壊滅的であり、子どもたちは代償を払い続けている。政治的意思、経済的支援、平和と安全に対する集団的、情熱的な取り組みが必要だ。私たちは希望をもたらすために、今行動しなければならない」と訴える。