見えない所も真実尽くしたい 木材加工から気密・断熱の家づくりまで サクタスタイル代表取締役 大山利行さん

木材加工工務店をルーツとする有限会社サクタスタイル(大山利行・代表取締役)は武蔵野の面影が残る雑木林の目の前にある。加工場を併設し、2階の事務所に連絡する通路にはテラスがあり、外の木立を感じさせる。

「気密、断熱、耐震を基本にしつつ、会社として大事にしている木材や自然素材の提案もしている」と大山さんは言う。「木の風合いはやはりいい。神様が造られた個性だと思う。今はハウスメーカーでも木目を再現した新素材が開発されている。安価に利用できるのは良いが、やはりそれは本物の木ではない。実際の木を体験すると、やはり違うと思っていただけます」

昨年以来のコロナ禍の影響で、「テレワークスペースがほしい」といったリフォームの依頼もある。「旅行にもなかなか行けず、家にいる時間が長くなっている。少しでも快適な空間にしたい、と意識が家の中に注がれるのを感じます」

近年は脱炭素、省エネの動きもあり、「高気密」「高断熱」「耐震」を重視した高性能住宅の建築を進めている。「断熱と気密はセット。ウレタンを壁に入れる方法があるが、それだけだと隙間だらけ。壁にピッタリはまる断熱材を使う。さらに施工でも段階ごとに隙間を埋めていき、最後に専用の機械で気密を測ります」

写真=従来の断熱方法は隙間が多い(右)。左は気密性の高いパネル

隙間については、かつては大工の裁量でバラバラだったという。「床下、天井裏、屋根裏といった見えない部分は、従来あまり気にしていなかったというのが実情。手間がかかるので二の足を踏んでいたが、3年前から本格的に取り組むようになりました」

気密と同時に実施するのが換気計画だ。「ダクトを床下や天井裏に通し、一つの機械で空気を押し出す。各部屋にはフィルター付きの外気口があり、空気が自然に流れていく。さらに設備を整えれば、熱変換機で外気を温めていくこともできます」

「断熱と気密をしっかりすれば、エアコン1台か2台で家全体を温めることができる。熱効率が悪い家で複数のエアコンを各部屋に置くとかえってコストがかかるもの。都内など土地が狭いところでも、ドアを減らして、広々としたスペースをつくることもできる。高性能住宅というと、ぜいたくなことと思われがちですが、脱炭素の流れに沿い、エネルギーを最小限にすることができる。家で快適に過ごし、健康を守ることは大切なことになります」

大山さんはもともとデザイナーで、キリスト教出版社などで勤務していたこともあった。30代で一念発起して、佐久田工務店に入社。大工の腕を磨き、工事の番頭(現場の采配を振るう役割)を任されるまでになった。2005年に社長に就任し、有限会社サクタスタイルと名付け、再出発した。

だがその矢先、同年12月に、近隣からの出火で、事務所、作業場、資材などもろとも全焼するという事件が起きた。火災保険も入っておらず、大きな打撃だった。「平日社員は現場に出て、土日は社屋の再建。休みなしの状況だった。まさに旧約のイスラエルの再建と思いが重なった。『これは何のための苦しみか』と悩み、『この状況にも何か意味がある』と信仰で問いました」

08年のリーマンショックでも打撃を受けたが、徐々に仕事の依頼が増えていった。「大会社の傘下にあるわけではないので、ある時は忙しいが、ある時は全く仕事が入らないということもあり、常に試される。しかし火事の経験で、天を見上げて立ち上がることができた。安泰ということはないが、お客様や働き人を大事にして、真実、誠実、謙虚さを尽くしていきたい。もうけ第一主義になれば、後で足元をすくわれる。建物の隙間を埋めることもそうだが、目に見えないところも、見られている。真実は明らかにされます」

建築特集 ステイホーム(家で過ごす)時代の安心と温もり