「ヘボン先生を現代に呼び宣教の原点について聞く」 『ヘボンとの対話』著者 眼科医 柳沼時影氏

神奈川県横浜市金沢区にある柳沼眼科医院の院長、柳沼時影氏の新刊『ヘボン先生との対話 涙と共に福音の種を蒔くすべての人へ』が、YOBEL,Inc.から出版された。

自著を手に柳沼氏

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ある日、主人公の時夢(じむ)は、古めかしいコートを着た歳が推定できない老人と出会う。時夢はその老人を喫茶店に誘った。対話の中、話が横浜指路教会に及ぶと、時夢はその老人にこう言った。「その教会はヘプバーンというアメリカ人宣教師が建てた教会です」と。老人はこう言った。「私がそのヘプバーンだよ。皆がわしをヘボンと呼んだ」
J・C・ヘボンは米国長老教会の医療伝道宣教師として幕末に来日。横浜で医療活動に従事する傍ら、聖書の日本語訳に携わり、初の和英辞典『和英語林集成』を編さんした人物だ。ヘボンは、柳沼氏と同じ眼科医でもあった。本書は、170年の時を超え、主人公の時夢がヘボンと語り合うという設定。時夢のモデルは柳沼氏自身で、対話の中、ヘボンはキリストにも、作者の父親にもたびたび重なる。
本書を書くきっかけについてこう語る。「私は眼科医をしながら牧会もしてきたが、10年終えて生じてきた感情につまずいてしまったことがある。立ち直るには誰かの助けがほしかったが、私にとっての誰かは信仰の友でも日本のベテラン牧師でもなく、宣教の心を持って来日したヘボン先生だった。それでヘボン先生を現代に呼び出して会話し、宣教の原点について話を聞くという内容の本を書くことになったのです」

『ヘボン先生との対話』柳沼時影著 YOBEL,Inc 1,870 税込 四六判

背景にあるのは、現代の教会の危機だ。「金沢区では二つの教会がすでになくなっている。このままだと、私の子どもたち、孫たちが通える教会がどれだけ残るのか心配だ。一方、みんなはこの危機をどう捉えているのか。ヘボン先生だったらどう思うのか、というのも一つのテーマです」
「境界線の人たちを重視している」とも言う。「例えば、教会に行っていたけれど、対応があまりに冷たくて行けなくなった信徒、様々な事情で教会に行きたくても行けない、教会の外にいる人たち。私が牧会している時も、他教会でつまずいて私の教会に通うようになった人もいた。そういう人たちを見た時、ヘボン先生は、日本にどんな教会を建てることを夢見ていたのかを想像する。また、今の教会を見てどんなことを思うのか考える。ヘボン先生なら、『教会は一つも発展していない。むしろ昔に戻ってしまった』と言うのではないでしょうか」
新型コロナウイルスが感染拡大する今、ヘボンならどうするだろうか聞いてみた。柳沼氏は「聖書翻訳、和英辞典を作っているのではないでしょうか」と語る。「関内は外国人居留地で、そこに海外の人々や宣教師たちを住まわせ、外に出られないようにした。また居留地の外では宣教が許されなかった。だが、ヘボン先生は関内にいた7年間に、聖書翻訳、和英辞典の編纂という大事な仕事をした。この時期だからこそできた働きでもある。コロナ禍で教会は一緒に集まれなかったり、活動が制限されているが、ヘボン先生のようにこの時期だからこそやれることがあるのではないでしょうか」
本書には、韓国人として来日し、東京慈恵会医科大学で学び、やがて横浜の金沢文庫で開業するまでの、柳沼氏のこれまでの半生も反映している。内容のほとんどは医学の話ではない。しかし、「眼科医として患者の話に耳を傾けてきた経験は生きている」と言う。
最後にこう結ばれている。「日本の教会に、先生が望む何か素晴らしいことが起こることは間違いない」