個人の良心に委ねられない ヒト生殖細胞のゲノム編集の倫理 関西セミナ-ハウス活動センターで講演会 下

遺伝子の配列を自在に操作する「ゲノム編集」技術の特徴、可能性について、前半の講演では遺伝子研究の現場から語られ、実際的な倫理的課題も提示された。講演後半では、日本学術会議の提言にかかわった土井健司氏(関西学院大学神学部教授)が話した(関西セミナーハウス活動センター主催「220年度修学院フォーラム『いのち』第2回 『ゲノム編集の光と影』〔3月20日、京都市の同所とオンライン配信〕)。【高橋良知】
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日本学術会議、内閣府総合科学技術・イノベーション会議ではそれぞれ関係委員会で17年、19年に提言や報告書を発表し、ヒト胚ゲノム編集の法規制の必要性を訴えた。政府は基礎研究を容認する方針を示している。だが世界的に基礎研究から応用への転換のスピードが増す中で、日本学術会議の関係分科会では20年3月に改めて臨床応用への法規制について提言を提出した。さらに同哲学委員会いのちと心を考える分科会が同年8月に「提言 人の生殖にゲノム編集技術を用いることの倫理的正当性について」を発表した。

20年8月の提言のポイントとして土井氏は、①人の尊厳の擁護、②優生思想・社会差別の助長への懸念、③次世代への影響、を挙げた。
優生思想に対しては、ある難病患者が「病気によって人の生き方を深められた。病気はけっして人生にマイナスではなかった」と話していたエピソードを紹介し、「病がない方がいい」という社会通念を問い直した。

ゲノム編集を画期的に進めた技術「クリスパー・キャス9」の発明者ジェニファー・ダウドナ氏(2020年ノーベル化学賞受賞)もヒト胚でのゲノム編集を危惧し、様々な議論の場を設けていたが、15年に中国でヒト受精胚へのゲノム編集が試みられた。これを受けてダウドナ氏らは、同年第1回国際ヒトゲノム編集サミットを開催した。 ところが同サミットの第2回(18年)直前に、中国でゲノム編集をした双子の誕生が発表され、同サミットで当該の研究者が発表するという事態になった。土井氏は、「できない時に禁止するのは簡単だが、できるときにどう規制するかが問題」と述べた。

 目的と手段が逆転

(この後、個人が技術を制御できない事態に言及します。2021年4月25日号掲載記事