【教育特集】キリスト教愛真高等学校 弱くされ、虐げられた人への目線
弱くされ、虐げられた人への目線 寄稿 キリスト教愛真高等学校 校長 栗栖 達郎
写真=農畜産業や食事など体験を通しても学ぶ
本校は1988年、島根県江津市に設立されました。日本海を見下ろす山の中腹にあり豊かな自然に囲まれています。
創立責任者の高橋三郎は、内村鑑三の志を継承した独立伝道者でした。荒廃した教育現場の現実を前にして、真理を愛し真実に生きようとする人格の育成が急務と考え、「人は何のために生きるか」という人間の根本問題を教育の中心に据えた学校の設立を提唱しました。その呼びかけに賛同して多くの祈りが結集され開校しました。教育目標として「豊かな知性と確固たる良心を合わせ備えた責任の主体たる独立人を育成することを目標に、少人数・全寮制の環境において聖書に基づく全人教育を行う」を掲げています。
生徒たちは毎日の朝拝、夕会と日曜礼拝を要(かなめ)として学校・寮生活を送っています。朝拝は全教職員が、夕会は全生徒が輪番で感話を述べます。その人にしか語ることのできない真実な言葉に一同が耳を傾ける礼拝の場は、愛真高校という共同体の中心です。公の祈りの場であり、また一人ひとりが自分はどう歩むのかと問われる場でもあります。
生徒は普通科のカリキュラムを学習しながら、毎日の食事作りや「作業」によって、共に汗を流すことは喜びであることを体験的に学んでいきます。作業は、園芸・菜園・修繕・水田山林・製パン・保存食品・養鶏・リサイクルの八つの作業班に分かれた活動を通して、自分たちの生活を自分たちで整えることを大切にしています。
また毎日の食事作りや、掃除・洗濯といった身の回りのことを自分で行うだけでなく、現在はコロナ禍のために中断していますが、トイレの汲み取りまで行ってきました。調理で出る廃油は全て石けんにする、生ごみは堆肥にして野菜や果実を育て、ジャムを作り、薪で焼いたパンにつけて食べるなど、人がさまざまな働きによって支えられており、その一つひとつがつながっているということを知る体験は、自立に向けて大切な知識や技術を身につけるだけでなく、社会に目を向け自分はどう生きるべきかを考えるきっかけとなっています。
写真=グループ学習の様子
新型コロナウイルス感染症の蔓(まん)延により、山の中にある本校も大きな影響を受けており、長期休み後には個室隔離期間を設けるなどの対応を行っています。その期間を経て、自分たちで調理したものを共に食する時の生徒の表情は実に喜びにあふれています。しかし全寮制の生活は集団感染と隣り合わせのため、感染予防に気を使う毎日です。
本校では言葉も文化も違う他国の人と共感し合い、隣人として歩むという国際的精神の育成を大切にしており、そのための平和学習を重要視しています。平和学習は社会と自分を結びつけ、社会の一員として自らの責任を考える大切な学習になっています。しかしこれまで行ってきた広島、沖縄、韓国、台湾への平和学習・研修旅行は、昨年度はコロナ禍のために行くことができず、校内での調べ学習やオンラインを活用した特別授業などに頼らざるを得ない状態が続いています。
このように外に出かけることが難しい状況の中で、最近はSDGs(持続可能な開発目標)などの環境問題への取り組みや、この社会の在り方を自主的に学ぶという有志での活動が盛んになってきました。有志の人たちの企画による学習会や、意見発表の場には、多くの生徒が自主的に参加しています。それらの学びを通して思わされることは、生徒たちの目線が、弱くされ、虐げられている人々に向けられていることです。生徒たちは、生活すべてが学びである本校の日常を通して、全寮制の中での人との関わりを通して、自分はどう生きるのかを模索しています。