法務省後援「社会を明るくする運動」の一環 どんな人もとことん付き合う 舞台「私を代わりに刑務所に入れてください」7月2日から 非行少年の更生で社会が良くなる

手首を切ろうとするるりの手をつかむシーン。右が誠慈役の佐田さん

7月2日から4日まで、東京・新宿区の新宿シアターサンモールで公演される舞台「私を代わりに刑務所に入れてください」(脚本・演出/米澤成美、脚本監修/佐向大、同舞台製作員会主催)。元暴走族リーダーで、現在はNPО法人チェンジングライフ代表として非行少年少女を助け続けている野田詠氏牧師(アドラム・キリスト教会)の同名著書が原作だ。後援は法務省 矯正局 保護局(社会を明るくする運動)、吉本興業、推薦に厚生労働省。この舞台について発案者である絹田至氏(東京オリーブ教会牧師)に聞くと共に、出演者に舞台に向けての意気込みを聞いた。(6月13日号で一部既報)

演技指導する米澤さん(右)

「『造られたもので、神の前で隠れおおせるものは何一つなく、神の目には、すべてが裸であり、さらけ出されています』(へブル4・13、新改訳第三版)。この御言葉が私の人生を変えました」
舞台では、主人公・森田誠慈のこの言葉から始まる。幼い頃に両親が離婚。暴走族に入り、非行少年として警察に捕まって鑑別所、少年院送致となるが、母の愛と聖書との出会いにより回心。少年院を出てからは、昔の仲間とは関係を断ち、牧師になるために神学校に通う。やがて、妻の友紀奈と結婚。2人で教会を建て、非行少年の更生のための自立準備ホーム「チェンジングホーム」(法務省管轄)と自立援助ホーム「アシュレイ」(厚生労働省管轄)を始める。前半では、そんな主人公の半生を描く。
中盤から後半は、3回捕まって2回少年院に行ったという松田直太、虐待やネグレクトで真っ当な親の愛を受けて来なかった酒井るり、ADHD(自閉症スペクトラム)の渡辺悟、誠慈が救えなかったフミヤなど、チェンジングホームやアシュレイに入所した少年少女との関わりを描く。誠慈役はお笑い芸人で漫才コンビ「バッドボーイズ」の佐田正樹さん。佐田さんも元暴走族総長で、福岡少年鑑別所に1か月収容されていた経験を持つ。その物語のマンガ「デメキン」がヒットし、映画化された。

教会で一緒に食事をするシーンの練習

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野田牧師と親交がある絹田さんは、『私を代わりに刑務所に入れてください』が出版されたのを機に「これを舞台にしたいと思った」と言う。「当時、チェンジングライフを含む三つのNPОが法務省と官民意見交換会を行い、犯罪を犯した少年には刑罰より教育が大切という流れがあった。法務省が毎年7月に『社会を明るくする運動』というキャンペーンを行っているが、その一環として、この本の舞台を通じて社会を改革する運動を広めていこうと。舞台化の話は当時の法務省矯正局の小山定明課長に相談したところ、法務省としても『ぜひいいことだから形にしてほしい。ゆくゆくは全国の少年院での公演を目標に頑張ってほしい』ということになり、教会に通い始めた米澤成美さんに脚本を書いてもらいました」
本番ではるり役で出演し、演出も担当する女優の米澤さんは、2年かけて脚本を書き上げた。「暴走族の世界は全く知らず、こういう活動をされている牧師さんも初めてだったので、こんな世界があるんだなあというのが第一印象だった。野田先生からは、『非行少年が更生することによって社会が良くなる。どうしても被害者に目線が行きがちだけれど、実は加害者支援をすることで被害者は減るということを、いちばん伝えたかった』とお聞きした。そこから、1年かけて少しずつ、野田先生の教会や少年院や児童相談所を訪問し、それぞれの思いを聞いたり、法務省の官僚にインタビューしたりして取材を重ね、脚本に落とし込みました」

6月14日、佐田さん(左)は浪速少年院を訪問し講演。院生に自身の体験を話した。右隣は野田牧師

こんなエピソードも語ってくれた。この舞台の後援依頼を法務省に交渉。だが法務省側からは、「一宗教を推すことはできない。キリスト教の要素は外してくれたら後援をする」と言われた。しかし、米澤さんは「それはできません」と突っぱねた。「この舞台の根幹は教会と信仰です。舞台を作り上げる上で最も重要です。野田先生は牧師だから、キリスト教は外せません」。そう答えると、法務省はその信念に圧倒され、後援することをあっさりと了承した。
絹田さんは振り返り、反省する。「私は小山課長の立場を慮(おもんぱか)り、『はい、分かりました』と折れていた。でも、彼女はクリスチャンでないのにあのようにズバッと言ってくれた。私は不信仰だったが彼女には信仰があった」。その後、野田牧師の働きが評価され、厚生労働省もオフィシャルに推薦をしてくれることになった。
米澤さんは、印象的なシーンとしてエンディングを挙げた。誠慈のところにいたフミヤがそこで犯罪をし、また少年院に入っていた。そのフミヤが戻ってくるシーンだ。ここで野田牧師が語った「どんな人であれ、とことん付き合う」というひと言が表現されている。「そこまでできる人はいない。すごいなと思った」と言う。

原作の野田詠氏著『私を代わりに刑務所に入れてください』

一方、誠慈役の佐田さんは、「演出家の意見がすべて」と言いつつも、「『こういう状況の時、自分ならどうする?』と考え、相談しながら、自分なりの誠慈を演じていきたい」と抱負を語る。「今まで関心を持てていなかった人が、少しでもこの舞台を見て、『ああ、今までの自分を見つめ直したいな』『ああいう人がいるならもっと頑張らないと』と少しでも思ってくれたら。どうせ生きるなら、自分のためより誰かのために生きたほうがいい。先人たちがそうであったように、私たちも誰かのために生きていけるような古き良き日本であってほしい」と語った。
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【公演スケジュール】7月2日午後2時~、7時~、3日午後2時~、7時~、4日午後3時~。初日には、野田さんと佐田さんの対談も企画されている。チケット料金(全席指定・税込)は一般席5千円、特別席(前方席)1万円、オンライン配信2千円。申し込みはウェブサイトURL https://itachoukinuta.wixsite.com/prisonから。【中田 朗】