[レビュー1]厳格な神学こそ、自信をもって懐開ける 『改革教会の伝統と将来』評・青木義紀
改革派を誤解している人は多い。厳格な神学に拠って立つ閉鎖性と排他性を特徴とする教条主義のように捉えられている。
確かに厳格な神学に立つ。しかしそれが必ずしも閉鎖性や排他性を生み出すわけではない。それが必ずしも教条主義に行き着くわけでもない。むしろ宗教改革期においては、ルター派が信条の閉鎖性をもって一致を保とうとしたのに対し、改革派は地域や時代の変化に伴って新たに信条を生産し続けるという開放性を保持した。
厳格な神学に立つからこそ、核心を見失うことなく、自信をもって懐を開くことができる。本書の中に通奏低音のように流れ、全体にみなぎっている安定感はそんなところにあると思う。
改革派信仰の特徴は様々あるが、何よりも徹底して聖書に堅く立ち、神を畏れ、神の創造されたすべての領域に神の主権を認める信仰である。そのことが、伝道、奉仕、国家との関係、コロナ禍、天皇制の課題、女性教職・長老職の問題といった多様なテーマを扱う根拠となっている。いずれも、難しい課題であるだけに、確かな神学理解に立って語られる本書の言葉には、すべてのキリスト者が耳を傾けるべき価値と重要性がある。
著者のアプローチは、まず課題の本質を神学的に見抜く点にある。その上で、具体的な問題の対応に乗り出す。例えば天皇制の問題について、「聖書から見れば、天皇の本質は異教の大祭司である」(169頁)と鋭く見抜く。それゆえ天皇は、国家的為政者ではなく「上に立つ権威」(ローマ13・1)でもない。異教の大祭司である天皇に依存したり、これと共存したりするキリスト教会はあり得ないと具体的な対応も明快である。
本書の特徴は厳格な神学にあるだけではない。堅固な神学とともに行動と実存がある。学問と敬虔、書斎と現場、冷静さと情熱が調和している。現場に生きる私たち信徒と教師はこういう指針を必要としている。著者が提示する立場に賛同するにしても反対するにしても、まず本書との対話が出発点となる。
(評・青木義紀=日本同盟基督教団和泉福音教会牧師、東京基督教大学非常勤講師)
『改革教会の伝統と将来』
袴田康裕著、教文館、1,980円税込、四六判