「信州夏期宣教講座エクステンション」で渡辺鈴女氏 継承のない時、荒廃が始まる

信州夏期宣教講座エクステンションが、7月13日、「教会の教育権回復をめざして」をテーマに、都内の日本キリスト教会東京告白教会の会場とオンラインを併用して行われた。講師は昨年に続き、日本キリスト教会教師の渡辺鈴女氏。「戦後教育における教育基本法の意義と教会の教育権─戦前の教育を受けたキリスト者教師の体験をとおして─」を講演題として語った。

渡辺氏は大正15(1926)年の生まれ。大正が昭和に変わった年であり、昭和生まれの最初の人と一緒に尋常小学校に入学した。学校で国民の三大義務「納税・兵役・教育」を習った。「教育勅語」の下での教育は、天皇の臣民になるための教育であり、親にはその教育を受けさせる義務があった。毎年行われる、四方節(元旦)、天長節(今上天皇の誕生日)、紀元節(建国記念日)、明治節の四大節には、学校では学校長が紋付き袴で天皇のご真影の幕を上げ、生徒は最敬礼、そのままの姿勢で教育勅語が読まれるのを聞いた。

高等女学校の3年の時に大東亜戦争が始まった。その頃から教師たちが変わっていくのを感じた。校長は軍服を着て、「随神の道(かんながらのみち)」を教えた。滑稽だったが、黙って聴くだけだった。教育内容も変わった。英語の授業は廃止、英語を翻訳した歌も禁止された。大正時代は欧米に習い、先進国としてあこがれてさえいたのに、その国を蔑視するようになる。さすがにおかしいと思ったが、はっきりとは分からなかった。10歳はなれた兄二人は軍隊に行っていたが、大学まで教育を受けた彼らには、この戦争がどういうものか分かっていたはず。一方で弟は完全な軍国少年になっていた。「この違いは時代の教育が生み出した。学校以外に私に知識を教えてくれるところはなかった」

その後津田塾専門学校に学び、終戦を迎えた。教師として北陸学院、神戸女学院、新渡戸文化学園(当時)、女子聖学院で教えた。女子聖学院では、その信仰的な環境の中で、職員とともに教育基本法の勉強会を行った。特に第10条「教育行政は、この自覚のもとに、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならない」に注目する。「教育権は国民にあって、国家はそれを保障するが、教育の内容に関わってはいけない。国家がするのは、教育の条件整備。その法律が改定され、国家が教育の内容に関わり出している」

「十戒の第5戒は『父と母を敬え』。これは、父と母から聞け、ということであり、教育の原点。親は、歴史を次の世代に継承する義務がある。教会は終わりの日を目指す歴史的な教会であり、継承とは受け継いだ契約を次につなげること。それは信仰に関わることだけではない。一般教育は人間がどう生きるかということであり、それは、どう神に仕え、どう隣人に仕えるかということ。父と母から受け継ぐことが教育であり、継承がなされない時に、荒廃が始まる」(8月15日号「8・15特集」で講演の詳細を掲載予定)