“Higher”などで盛り上げるスライ&ザ・ファミリー・ストーン (C) 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

1969年6月29日から8月24日までの6回の日曜日に、ニューヨーク市でも古いハーレム地域に在るマウント・モリス公園(1972年に黒人民族主義の指導者だったジャーナリストに因みマーカス・ガーベイ公園に改称)で開催された「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」。公民権を求めるアメリカ黒人コミュニティと黒人アーティストたちとのスピリットが一つに燃えたフェスティバルを撮影していたテレビ用のドキュメンタリーフィルムが発見され、50年ぶりに映画として公開上映されよみがえる。

1969年当時のアメリカは、黒人コミュニティにとって言いようのない圧力と希望を損ねるような時機ともいえる。63年11月にジョン・F・ケネディ大統領がダラス市で暗殺された。翌年ジョンソン大統領によって公民権法が制定されたものの、65年2月に公民権運動家のマルコムXがニューヨーク市内で暗殺された。68年4月4日には非暴力主義のマーティン・ルーサー・キング牧師がメンフィスで、ケネディ大統領とともに黒人の公民権に尽力したロバート・ケネディまでもロサンゼルスで6月5日に銃撃され命を落としている。黒人の公民権運動のリーダー的協力者たちが失われていく中でも、このフェスティバルは、マーティン・ルーサー・キング牧師の一周忌を記念したテレビ企画として起ち上げられていった。この企画に共和党だがリベラル派のニューヨーク市長ジョン・リンゼイも協力した。

ゴスペルやモータウンの幅広い
ジャンルのアーティストら出演

6回の日曜日に4万人の立ち見が予想される企画に、モニタースクリーンを設けたステージや音響設備など多額な製作費を節約するため日中に行われたテレビ撮影。本編で最初に映し出されたのは弱冠19歳のモータウンアーティストだったスティーヴィー・ワンダーが演奏する“Drum Solo”。アミール・“クエストラブ”・トンプソンが「スティーヴィー・ワンダーがすごいドラマーでもあった驚きを与えて力強く映画を始められる」と考えた意図は、心臓を鼓舞するリズムとなって身体を揺さぶられる。続く黒人ファミリーと白人のドラマーとサックスの混成バンド、スライ&ザ・ファミリー・ストーンのファッションと演奏スタイルは、音楽的にも政治や思想的にも新しい時代への力強い一歩を教えてくれる。

一方で、黒人ミュージックの中核にゴスペルがしっかり根付いていることも語っているフェスティバルでもある。マーティン・ルーサー・キング牧師が暗殺された翌日にマヘリア・ジャクソンが歌う予定だった“Precious Lord, Take My Hand”をマヘリア・ジャクソンは若手のメイヴィス・ステイプルズと一緒に歌いゴスペルのスピリットを引き継がせていく。そのほかテンプテーションズを離れてソロ活動を始めたデイヴィッド・ラフィンの“My Girl”や“Oh Happy Day”のエドウィン・ホーキンズ・シンガーズ、ギタリストのB・B・キングなど幅広いジャンルのアーティストたちが登場。当時のアーティストや聴衆だったコメンテータらが、自分たちの意識を高め文化的にも行動を変えられた感動を振り返っていく。

侮蔑的な意味合いを持つ”ニグロ”ではなく、黒人の美しさと才能をもつ”ブラック”と表現して意識変革に導いたニーナ・シモン (C) 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

“ニグロ”から“ブラック”へ
アイデンティティを目覚めさせたとき

出演者の一人ニーナ・シモンが、音楽監督としてパートナーシップを組んだウェルドン・アーヴィンと書き上げた「TO BE YOUNG, GIFTED AND BLACK」で披露し、“若く、才に恵まれ、黒人として生きる なんと素敵でかけがえのない望みでしょう…”と歌い出す。インタビューを求められた人たちは当時を振り返り「(奴隷蔑視の意味合いを持つ)ニガーではなく、ブラックと自己表現するように意識が変わった」と答える。

このライブが開催されている期間中に、130Km離れたニューヨーク州サリバン郡の農場ではウッドストック・フェスティバル(8月15~17日)が開かれた。ベトナム戦争に疲弊し平和を希求する40万人以上の若者やヒッピーたちが集い、ジミ・ヘンドリックスが弾くアメリカ国家でステージが締めくくられた。人々が立ち去った後、農場に舞う紙くずなどが戦争に疲れたアメリカを感じさせた。

一方、狭い公園にのべ30万人を超えるの黒人たちが集ったハーレム・カルチュラル・フェスティバルでは、人種差別と貧困を強いられる中でも、“ニガー”ではなく美しくて才能を授かっている“ブラック”として誇りをもって共生を生み出そうと意識改革へ踏み出す。トランプ政権以降、分断と偏見と差別意識が吹き出しているアメリカ。「50年前と何も変わっていないのではないか」というメッセージが、この熱い音楽ドキュメンタリーの発見と公開から聴こえてくる。【遠山清一】

監督:アミール・“クエストラブ”・トンプソン 2021年/118分/アメリカ/原題:Summer of Soul (…Or, When the Revolution Could Not Be Televised) 配給:ディズニー 2021年8月27日[金]よりTOHOシネマズ日比谷、渋谷シネクイントほか全国公開。
公式サイト https://searchlightpictures.jp/movie/summerofsoul.html
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*AWARD*
2021年:サンダンス映画祭ドキュメンタリー部門審査員賞大賞・観客賞受賞。