本書は、日本福音同盟(JEA)社会委員会が2019年と20年に開催したセミナーの報告書です。

セミナーの題は、31回「なぜ日本でキリスト教は広まらないのか」、32回「コロナ禍に忍び寄る『凡庸』という名の悪魔」(ズーム開催)です。共に教会が直面している日本宣教と教会形成の重要な課題です。講師は、青山学院大学宗教主任・森島豊氏また日本福音キリスト教会連合布佐キリスト教会牧師・児玉智継氏 (JEA社会委員)です。また講演と現場を結び合わせるレスポンスが設けられており、興味深い内容を収録しています。応答者は、前者に神学生4人、後者にJEA社会委員会の委員6人です。

講師森島氏は、諸外国から開国とキリスト教の受け入れを迫られた明治政府が、皇室祭祀を超宗教(国民儀礼)に定めてキリスト教を受け入れたことにより、キリスト教は骨抜きになったと指摘(14頁)。骨抜きとは、キリスト教が超宗教に並ぶことで、唯一神信仰の他は拒否という教会の抵抗力を弱めたこと、それが、今も日本を覆い、キリスト教が日本で広まらないと指摘しました。

講師児玉氏は、コロナ禍の下で、教会に全体主義が忍び寄っているとし、それに抵抗する手立てを、ハンナ・アーレント著『エルサレムのアイヒマン~悪の陳腐さについての報告~』に見出しました(映画「ハンナ・アーレント」は13年に日本で公開、ネット配信で今も視聴可)。

アーレントは、ホロコーストの悪の象徴とされるアイヒマンが、「法を守る市民として忠実に義務を行った」と繰り返し発言したことに注目した。アイヒマンはヒトラーの意向に従う平凡な官僚であり、残忍さ、狂気、ユダヤ人への特別な憎しみなどない人物であった、その彼がユダヤ人を公然と永遠に抹殺する計画に加わり、中心的役割を果たした。

それは人類の複数性・多様性を否定する罪であり、彼の死刑の唯一の理由とアーレントは指摘した(48~51頁)。 そこから児玉牧師は物事を他者の視点で見、複数性に耐え、無思想性に陥らないこと、そこに全体主義に抵抗する力を見出し、単純な説明や解決に逃げ込む思考停止に陥らない大切さを語りました。そして次の聖句で講演を締めくくりました。「(人々は)非常に熱心にみことばを受け入れ、はたしてそのとおりかどうか、毎日聖書を調べた」(使徒17・11)。今の時代に、特に意義ある二つのセミナーの報告書です。ぜひ手に取って読んでください。
(評・廣田具之=日本同盟基督教団牧師)

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