日本ローザンヌ委 起業育成部門創設と組織更改へ 「多次元」共生の宣教協力

写真=2050年に向けた構想が語られた

宇宙開発、量子コンピューターなど先端技術が現実化し、既成概念が通用しなくなる社会でいかに宣教協力を構想するか。日本において「世界宣教のために、影響力ある人々とアイデアをつなぐ」プラットフォームをめざす日本ローザンヌ委員会(JLC、倉沢正則代表)は、「2050年の宣教協力」を構想し、組織更改する。8月23、24日にオンライン開催された「ローザンヌ・ビジョン・フロンティア」(LVF)では具体的事例とともに「多次元」な宣教協力の在り方が話し合われた。【高橋良知】

JLCは、世界的な宣教運動「世界ローザンヌ運動」の日本における窓口となるとともに、社会の現場で宣教に従事する信徒のミニストリーをつなぎ、教会ネットワークの変革に貢献し、社会への「包括的なミニストリ ー」へと展開するハブとなることを目ざす。

新たに打ち出すのは、宣教協力の研究とスタートアップ(起業)の育成を促す「R&D(宣教協力の未来開拓)」部門だ。合わせて同委員会は多様な宣教に対応するため組織の更改、部門の創設を進める。

今年6月には日本福音同盟、日本地区アジア神学協議会と相互協力覚書を交わし、今後数年間に開かれる国内外の宣教会議に向けて、将来構想を具体化している。

JLC委員長の倉沢さんは「2050年の未来を起点に現在なすべきことを考えることと同時に、今を起点に将来を見るという両方向のアプローチが同時進行する必要がある。次世代のスタートアップを共に創り出すための受け皿を備えたい」と抱負を述べた。

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今回のLVFでは2050年を「宇宙時代」と名づけ、「オープンイノベーション」「オープンダイアローグ」「オープンエデュケーション」をキーワードに「開かれた変革、対話、教育」を議論した。

国際的な金融世界で先進事業を見てきたJLC委員の青木勝さんは、「宇宙時代には、『多文化』共生社会にとどまらない『多次元』共生社会への変革が進む。宇宙から地球と人類の未来を展望する祈祷ネットワークが必要となる」と話した。

「宇宙ビジネス、量子ビジネス、脳科学などの変革によって、すでに仮想と現実が融合された世界になりつつある。コミュニケーションの世界では非言語的なアプローチ、芸術表現に注目が集まる。深刻な複合災害が続発し、事業の復旧と新規取り組みが錯綜する現実もある」など歴史観と世界潮流を紹介。「ローザンヌ運動が掲げる『全教会が全世界にまるごとの福音を』から『全コミュニティーが全宇宙世界に、まるごとの福音を』が必要になる」と勧めた。

事例発表の一つ目は、バレエ事業で起業した「みなとシティバレエ団」。「バレエの民主化」を掲げる同団は閉塞的現状にあるバレエ界に新風を起こしている。言葉を用いないバレエ表現により、アジアでの文化交流もしている。コロナ禍の中では、業界で初めて本格的なオンライン公演を実現した。オンラインコミュニティーも開設し、同団の会議に参加できるなど情報をオープンにし、会員の中からも地方創生とバレエのコラボなど様々な企画が提案され、実現している。

同団代表をはじめクリスチャンの団員がおり、高山右近の生涯の舞台化などクリスチャンバレエ作品の制作にも着手している。「教会でもリモートやハイブリッドの公演ができる。ぜひ相談してほしい」と勧めた。

二つ目の事例は青少年自立支援の「K2インターナショナルグループ」。「一人にさせない」をスローガンに生きづらさを抱える若者の自立就労、共に生きる場をつくってきた。横浜市根岸を拠点に、各施設(相談、学習支援、就労支援、共同住居、農場、教会など)を配置。自立した利用者も徒歩圏内に住居、職場を持ち、サポートする。

「ただ働くだけではなく、働き続ける環境をつくる。仕事だけではなく関係性が大事。仲間をつくり、支え合い、支援が循環する。元利用者も含め日曜の礼拝が仲間となる場。多様な事業は一つ一つの出会いから生まれた」と言う。教会の位置づけについて「支援と教会は不可分。K2そのものが教会だという感覚がある」とも話した。

K2の事例で司会をしたJLC委員の西岡義行さんは「これからは専門家(牧師/神学者)が絶対的真理を上から伝えるというのではなく、むしろ実際の痛みや悩みに共に取り組みつつなされる現場での開かれた対話の中で、聖書の真理が立ち現れるるのではないか。そのような宣教協力を模索できないか」と応答した。

倉沢さんは、二つの事例発表を受けて、「対照的だが、今日の世界を凝縮する内容だった。教会もいろんなコミュニティーとかかわっている。K2のように生活圏全体を教会コミュニティーとしてとらえる在り方からは目が開かされる。キリストにある群れがどういう所に置かれ、どのようなかかわりをもつことを主が求めておられるか探られる」と述べた。

「過去や現在から10年先を展望する演繹(えんえき)的アプローチと、数十年先の未来構想から準備を加速させる帰納的アプローチの同時並行推進が必要。教団教派や団体の枠組みを超えた新たな変革に心を向けるためには、牧師・宣教師や信徒がフラットなチームワークを共創し、互いに学び合う姿勢が大事」と励ました。

2021年9月12日号掲載記事