新刊『小さないのちのドアを開けて』 「一番小さな存在が幸せであるように」
『小さないのちのドアを開けて』のワンシーン(上、絵=のだますみさん)
思いがけない妊娠や出産で悩む女性たちのために、24時間365日相談や支援を行っている一般社団法人小さないのちのドア(神戸市北区)の働きから生まれた新刊『小さないのちのドアを開けて―思いがけない妊娠をめぐる6人の選択』(いのちのことば社刊)が、評判を呼んでいる。著者は同法人の永原郁子代表と西尾和子施設長、6人の女性たちのエピソードを漫画化したのは、漫画家でイラストレーターの、のだますみさんだ。
9月にオンラインで開催された小さないのちのドア3周年記念&出版記念会で、永原さんは「27年前に助産院を開院して2千人以上の赤ちゃんを取り上げてきましたが、このおなかの赤ちゃんをどうすればいいのと、困っている人がいることを知りませんでした。私でさえ知らないのに、一般の人たちはもっと知らないだろうと思い、出版することにしました」と、動機を語った。
マスメディアで紹介され、一般書店でも販売が始まっている。本書によって活動の認知と支援が拡がり、そこから永原さんらの念願である小さないのちのドアの働きの全国展開へ、さらに妊婦と胎児を守る国の制度作りにつながることが期待される。
本書に登場する6人の女性の物語は、すべて実際のエピソードが元になっている。漫画で表現したのは、若者に読んでほしいと考えたからだ。中学生や風俗店で働く女性の妊娠、中絶に苦しむ女性、夫の暴力に追い詰められる女性。救いようのないような重たい内容を緩和し、読者を拒否感なく引き込むのは、透明感と品のある、のださんの絵と表現の力が大きい。
永原さん、西尾さんによる一話ごとの解説、妊娠の仕組みや避妊の方法、特別養子縁組や中絶について、さらに子ども虐待やDVの現状についても触れている。実録と知識、情報の三部構成で、ただ気の毒な女性たちの物語にはしていない。
実際に本人に会って取材するケースもあったというのださんは「私とは違う世界の人の話ではなく、誰でもがそうなり得る紙一重のところにいるのだと感じました」と、述懐している。
相談者の多くが虐待を経験しているという。男性に慰めを求めたり、自分の意思を伝えるのが苦手な人が多い背景には、そんな体験がある。
「私たちが見ないふりをしている社会の痛みのしわ寄せが、女性とおなかの赤ちゃんに行っていると感じました。ある記者がこの本について、女性を批判的に描いていないのは珍しいと言われました。小さないのちのドアは、女性たちがしてきたことを受け止めていくという姿勢で一貫しています。まさにイエス様の愛を体現しているのです」
その姿は漫画の中で何度も表現されている。受け止め寄り添い、当事者が「前向きに決断できるまで何度も話し合い、伴走します」と、助けの手を放さない。「一番小さな存在が幸せかどうか」、迷っている人にアドバイスする姿も描かれる。
「教会も駆け込み寺のような存在になれればと思います。シングルマザーでも安心して子育てできる最高のコミュニティーとして」
本書を中学や高校に寄贈したいと、のださんは考えている。「女性と小さないのちの現実を知ってほしい。そして、自分自身とパートナーを大切にしていきたいと思ってもらえたらうれしいです」
『小さないのちのドアを開けて』(千870円税込)は、全国キリスト教書店、一般書店、いのちのことば社通販サイトで販売。