[レビュー1]賛美歌学、宣教学からワーシップまで 『音楽と宣教と教会―第54回神学セミナー』評・井上義
福音派の人々にとってのこの本の意義を総論的に言うなら、「賛美歌21」「Hymn Explosion」「日本賛美歌学会」と言った語彙(い)と結びついた伝統的な賛美歌学の見地から、いわゆるワーシップあるいはコンテンポラリーな礼拝と賛美について、宣教学的な視点を踏まえつつ、ある意味再評価を試みた本と言えると思います。
もちろん、第一義的にはより伝統的な改革路線と言える「Hymn Explosion」や「賛美歌21」といった賛美歌学的な成果の新しさを、積極的に紹介している本なのですが。
「『教会の音楽には分断がある』というのが、今回のテーマです…分断のある状況の中で、私は一つの立場に(おり)…公平中立というわけではありません。けれども、自分の側だけが正しいという主張をするつもりはありません。分断を深めるのではなく、乗り越えたいと願いつつお話しするつもりです」と語り始める、現日本基督教団の賛美歌委員長であられる水野氏の冒頭論文に見られる謙虚なお言葉には、希望を感じます。
水野氏は賛美の見解や実践の多様性について、「すべての立場を相対化する」ことの必要を語ります。「『絶対的なものは存在しない』ということは、絶対的な判断は存在しない、言い換えるなら、教会の礼拝に絶対的に用いるべき音楽はないということです。
また反対に、教会の礼拝で絶対的に用いてはならない音楽もないということです」との言葉は、英語圏の2000年以降のPost-Worship Wars periodの著作群に通ずる、平和のうちに創造的未来を作りだそうとする態度であると思います。
もう一つ、招待講演者である荒瀬氏の講演は、私たちはなぜ歌うのか? との根本的な問いに始まり、賛美の機能論的な掘り下げが丁寧になされた読み易いものだと感じます。様々な新しい賛美の流れの中、神学的、宣教学的、あるいは実験的な色彩も帯びつつ、広く開かれた様相のこの書物は、たくさんの良い視点を私たちに提供していると思います。
(評・井上義=日本同盟基督教団等々力教会牧師)
『音楽と宣教と教会―第54回神学セミナー』 関西学院大学神学部編 水野隆一著、キリスト新聞社、1,650円税込、A5判
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