「医療宣教」「沖縄の平和」焦点に オンライン対面併用で2年ぶり

第72回日本キリスト者医科連盟(JCMA)総会が8月20、21日、沖縄県那覇市の沖縄県市町村自治会館を会場に、オンラインを併用して開催された。主題は「医療宣教」で主題聖句は「イエスは町や村を残らず回って会堂で教え、御国の福音を述べ伝え、ありとあらゆる病気や患いをいやされた」(マタイ9・35、新共同訳)。同総会は昨年8月に開催の予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大のため1年延期。今年、ウェブ会議という形式で開催された。【中田 朗】

主題講演Ⅰではウイリアム・モア氏(在日本南プレスビテリアンミッション淀川キリスト教病院代表)が話した。「私たちの病院の創設理念は『全人医療』、すなわち患者を心と体と魂の一体として捉えるキリストの愛に基づく医療宣教だ。数年前、ミャンマー長老教会が運営するアガペー病院を訪問した。カレイという町にあるその小さな病院は多くの課題を抱えていた。医療機器は限られたものしかなかった。米長老教会のジャパン・ミッションは、病院事務局長の研修と電力供給の改善を最重要課題とし、それらを実現、その後専属の医師が見つかり、一昨年は淀川キリスト教病院での3か月の研修に招いた。アガペー病院での勤務を望むキリスト者医学生を支援している」
「共同プロジェクトは国際医療宣教の新たなうねりとなると信じる。個々でするより協働することではるかに多くのことができる。共に互いの信仰、希望、愛に勇気づけられ、恵みを受ける。どのように効果的な医療テクニックを用いればよいか地元の医師たちとシェアしどうすれば患者によりよいケアができるか看護師たちに示すことは、長期にわたり力を、影響を与え続ける可能性がある」と語った。
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特別講演では「沖縄の平和」をテーマに、友寄隆静氏(社会福祉法人光の子保育園園長)、武井陽一氏(デンマーク牧場福祉会こひつじ診療所)が話した。
友寄氏は「沖縄の平和 キリスト教信仰50年で気づかされたこと」と題し、こう語った。「沖縄戦で日本の捨て石として20万人の流血の島と化した島、戦後になっても日本政府に捨てられ続けている。日本国憲法第9条よりも日米安保条約を大事にしている日本の姿が、沖縄に軍事基地を押し付けている」、「クリスチャンは賛美、祈り、聖書の学び、隣人愛の奉仕を通して神につながる。神につながれば世界につながる。『互いに愛し合いなさい。これが私の命令である』と言われるイエス・キリストは、戦争が大嫌いな神だ。辺野古基地建設反対は、戦争につながるものを拒否する沖縄の心に重なる。福祉・医療の世界で働く私たちは、この現実にどう向き合えばよいか、共に考えたい」と結んだ。
武井氏は、福島第一原発事故、東京五輪を第一にするあまり後手後手に回るコロナ対応、今もやまない辺野古基地建設などに触れ、こう語った。「友寄氏は、沖縄の心とは、戦争につながるものを拒否することだと語った。JCMA総会が24年ぶりに沖縄で開かれているが、沖縄の皆様の講演を聞いて『よい話をありがとうございました』というだけの反応になるならば、『沖縄の心に寄り添う』と言いながら、無関心や他人事の態度となる。どのようにしたら沖縄の心、命こそ宝、反戦の心を身に着け、小さくされている沖縄の方々と歩めるか、共に考えたい」と語った。

総会はウェブ会議という形で開かれた

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講演Ⅰ、Ⅱでは、「海外宣教」をテーマに畑野研太郎氏(日本キリスト教海外宣教協力会〔JОCS〕常務理事)、宮城航一氏(オリブ山病院医師、那覇聖書研究会所属)が話した。
畑野氏は「『みんなで生きる』と出会った幸い」と題して講演。「JОCSはなぜ『医療伝道』でなく『医療協力』と名乗ったのか。『アジアの呼び声に応えて』(隅谷三喜男著)には、こう書いている。『医療宣教』は、先進国が一方的に医師を派遣し、病院を建てたりした歴史と結びついている。だから、『医療伝道』に代えて『医療協力』とし、相手国の主体性を尊重してこれに協力する、と」
「それでは『キリスト教』と名乗るのは無意味なのか。決してそうではない。クリスチャンの召命がなければ、この事業を決して起こせず、60年の歴史は刻まれなかっただろう。私たちがイエスに赦され、『みんなで生きる』を精いっぱいに続けること、神様の愛の国を広げること、これがJОCSにとっての伝道である」と語った。
宮城氏は「戦前・戦中・戦後の沖縄・沖縄県の医療を支えたキリスト者」と題して講演。宮城氏は「沖縄にハンセン病療養所を築いたのは、日本本土のキリスト者の善意と励ましによるものであった。1962年、本土に先立ちハンセン病の外来診療が始められた」ことにも触れた。「国際基督教大学ICU比較文化研究会研究員の宮城幹夫は日本基督教学会関東支部において、『沖縄の和解の神学─米国統治下でハンセン病を支援した基督者を踏まえて』と題する発表で、『偏見に立ち向かいつつ命がけで患者を支援した者が、キリスト者であった。社会悪である偏見に抗議したキリスト者の目的は、偏見を持った者がキリストの愛を知り、神との関係を回復することであった』と発表している。私たちJCMAの会員が医療を通し、困難な状況にある方々が神様から覚えられていると心から感謝していただける働きができるように」と励ました。
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講演Ⅲでは「心臓移植」をテーマに髙本眞一氏(賛育会病院特別顧問)、船戸正久氏(大阪発達総合医療センター副センター長)が話した。
06年から09年まで9例の心臓移植を施行した経験を持つ髙本氏は、「脳死心臓移植とキリスト教の姿勢」と題して講演。「日本のプロテスタント教界では脳死、臓器提供、ドナーとレシピエントのあり方などを深く憂慮し、心臓移植そのものは否定的で、JCMAもその方向性だった」としつつ、「重症心不全の患者の医療を援助することがJCMAにとって大切であると考える。これは国民全体のためであり、キリスト教の神の愛の精神を敬うことでもある。JCMAだけでなく、日本キリスト教協議会などの宗教団体にも脳死臓器移植の重要さが愛の精神に関連があることを理解してもらい、積極的に臓器移植医療を支援するように頑張ってほしいと考えている」と語った。
船戸氏は「小児の脳死判定とその対応」をテーマに「脳死患児の看取りの医療は、今後大切な医療分野であり、尊厳をもって児に接すると同時に、緩和ケアや家族中心のケアがより重要な医療的課題となる。こうした『看取りの医療』が本来あるべき医療として確立し、初めて両親の愛情の発露としての臓器移植が推進できるものと考えられる」と語った。
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講演Ⅳでは「脱原発」をテーマに山崎知行氏(日本基督教団大阪教区核問題特別委員会、上岩出診療所医師)が話した。講演題は「フクシマ核事故の経験から考える」。12年1月より大阪教区から福島に派遣され子ども健康相談を継続する中で放射能が人体へ及ぼす影響について考えてきたという山崎氏は、「いざとなったら政府・行政は、決して住民のことを十分には考えてくれない。唯一の被爆国と言いつつ、その実体は生活に根付いていたか。アトム・フォア・ピースは、本当にフォア・ピースであるのか否か。私たちは為政者たちに体よくだまされてきたと思わされる。その原点に返って、さらに現実的に、私たちは何をなしうるのか考えられればうれしい」と語った。
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閉会礼拝では田頭真一氏(第72回JCMA総会会長、オリブ山病院理事長)が「召命、派遣、結実」と題して説教。「私たちはキリスト者として、医療をもって人々に仕えるという同じ使命を持っている者として集った。その使命は医療宣教である」とし、「医療宣教はチームワークによる神様の御業。キリスト者の医療宣教において、その働きに携わるチームのメンバーすべてが共通する客観的、科学的、聖書的な論理の土台と枠組みの理解に至ってこそ、全人的な健康と癒やしを再構築するための互いのチームワークを始めることができる。皆様それぞれの尊い働きが神に祝され、用いられることを祈りつつ、これから遣わされていく一人一人に神様の守りと祝福を祈る」と結んだ。
その他、開会礼拝では齊藤清次氏(那覇ナザレン教会牧師)が「主の働き人」と題して説教。主題講演Ⅱではチョン・ソンボム氏(韓国全州市長老派キリスト教病院主任チャプレン)が「医療宣教」と題して講演した。

クリスチャン新聞web版掲載記事)