英国グラスゴーでのCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)が合意に難航し延長された11月13日、「福音に生きる持続可能な社会」をめざす環境コンソーシアム主催第4回聖書的環境シンポジウムがオンラインで開催された。世界的な新約聖書学者で、著書『聖書とエコロジー』(近く邦訳出版)などで環境問題を神学的に論じているリチャード・ボウカム氏(セント・アンドリューズ大学名誉教授)が英国からオンラインで講演。例年を上回る150人を超す参加者があり、高い関心を呼んだ。環境コンソーシアムは第6回日本伝道会議を契機に2016年から聖書に基づくライフスタイルや持続可能な社会の構築を明らかにする活動を続けている。

ボウカム氏は「なぜ教会は環境問題に関わる必要があるのか?」について講演し、気候変動による異常気象、生物多様性が急速に失われる環境破壊などに対して「キリスト教会は距離を置き、希望をはかない地上ではなく天国に置くべきか」と問題提起。人類が自然界を破壊している状況からクリスチャンが超然としていられない理由として、イエスが命じた隣人愛に着目した。「隣人をそこで生きている環境を無視して愛することはできない。人々は気候変動によって苦しんでいる」
気温上昇による砂漠化や、海面上昇で人が住めなくなる問題に「西側や北半球の豊かな国々は責任を負っている。気候変動のかなりの部分は豊かな国々によって引き起こされ、苦しみのかなりの部分を引き受けるのは南の貧しい国々だ。私たちは自分たちの属する社会の負うべき責任に連座している」と述べた。

ボウカム氏

「人間の生命と自然界の他の生物とは緊密に結び合わされており、精神的な健康は自然との正しい交流に依存している。過去には、環境は人間の生命のための安定した背景のようなものと考え、貧困を和らげ、病人を癒やし、福音をすべての人にもたらすことに専念できた。今や私たちは多くの破局的な出来事(野火、洪水、異常気象)が起きたのは、人間の造り出した温室効果ガスが、文明が何千年もの間依存してきた条件を破壊したからだと知る必要がある」
その上で、聖書的な観点から二点を指摘した。①それは隣人を愛する戒めだけでなく、神を愛する戒めも関係してくる。神を愛するなら、神が愛をもって創造し喜んだ、すべてを愛さないだろうか。隣人を愛さなければ神を本当に愛することができないように、被造物を愛さなければ神を本当に愛することはできない。②生物と無生物から成り、膨大な多様性と複雑さを持つ世界が神の被造物であると認識するなら、私たちもまた被造物の一部であることを思い出さなければならない。他の被造物は私たちの仲間なのだ。神が造られた互いに密接に関連し合う世界の中で、私たちは彼らと共に存在する。
この論点から、全被造物の聖書的ビジョンを回復する視座を提示した。等辺三角形の一つの角に神を、もう一つの角に人間を、人間以外の被造物を第三の角に置いた図を想定。「クリスチャンは、神と人間とを結ぶ一辺しかないかのように聖書を読む習慣を育んできた。しかし、他の二つの関係(神と他の被造物、人間と他の被造物)に目を向けるとき、人間が他の被造物との複雑なネットワークの中に組み込まれていること、神が他の被造物に大きな関心を持っていることを見出すだろう」
クリスチャンは垂直の線を描き、人間を神の下、他の被造物より上に置く。他の被造物は意のままに利用するために神によって備えられたと考える。だが、人間を被造物の中に入れていないことは失敗だとボウカム氏は言う。「人間は神の被造物の仲間だ。この図は、人間と他の被造物との相互依存性と相互関連性とを認識し損なっている。聖書は私たちに被造物の中での特別な役割を与えているが、それは私たちを被造物の上に置くものではなく、被造物の共同体の中での役割なのだ」
そして「三角形の中心に置くべきイエス・キリストは神であり人であって、神と他の被造物との関係と、人と他の被造物との関係の双方を分かち合っている」と位置付けた。「聖書全体のストーリー(メタ・ナラティブ)は、この世界の他のすべての真実なストーリーを包含する。神とその世界の大きなストーリーは、初めの創造から最後の新しい創造(刷新)に至る。聖書全体のブックエンド(創世記の最初の2章、ヨハネ黙示録の最後の2章)のどちらにも全被造物はある」
そして「このストーリーは人間に注目するが、全宇宙の枠組みの中にある」ことを強調。「創造、回復、刷新のストーリーを通じて神は全被造物に関心を持っている。神は私たちを他の被造物との関係において救う」として体の復活を例示した。「私たちの体は、私たちを物質的な全被造世界の一部にする。イエスは全被造物との連帯の中で死者の中からよみがえった。全被造物を永遠において刷新し、完全にするのが神の目的なのだ」
創世記1章と併せてコロサイ1・15〜20の御子による「万物の創造」と「万物の和解」に注目。「キリストの十字架を通じての神の目的は、全被造物に平和をもたらし万物における紛争と敵意を乗り越えること。救いの射程は創造の射程と同じように広い」とし、キリストが全被造物のために平和(シャローム)をつくられたことを強調。キリストのからだである教会が神の和解の業の一部になることを、具体的な指標を挙げて奨励した。

クリスチャン新聞web版掲載記事)