私自身が国際基督教大学(ICU)の卒業生であることもあり、本書を読み進めながら、私は学生時代にタイムスリップしたような感覚になり、一気に読んでしまった。

本書にはたくさんの「問い」が収められている。多様な背景をもつ多国籍の学生たちが、人権について、科学と宗教の関係について、平和主義や資本主義の問題について、環境問題や動物の権利の問題について、性・恋愛や学生の貧困といった身近な問題について、コロナ禍という時代を意識しつつ、「なぜ?」という「問い」を発している。

それに対して、著者は一方的に教えるのではなく、対話を促している。
教授も学生も一緒になって対話すること、時に激しく議論することは私も学生時代何度も経験した「ICUらしさ」であるが、そのなかで著者は、聖書から、組織神学から、教会史から、哲学や科学、時事的なニュースから、時には著者自身のストーリーから応答し、それに対してさらに学生たちが応答していく姿が本書には描かれている。

著者の応答は、誠実であたたかい。もちろん、大学の講義である以上、アカデミックであり、人によっては違和感を覚える説明もあるかもしれない。しかし、「このように説明すれば良いのか!」という発見も多くあり、神学的に重厚でありながら、対話形式であるために非常に読みやすく、分かりやすいキリスト教入門書となっている。

本書に登場する学生たちの「問い」は、「批判的思考(クリティカルシンキング)」を叩(たた)き込まれているICU生らしく、非常に鋭い。しかし、彼らが発する「問い」の内容は、不条理と理不尽に満ちている世界で生きる以上、誰もが一度は考えたことがあるものであるように思う。

必要とされているのは、本書で語られているような率直で正直な「問い」をともに問い、ともに知恵を出し合い、諦めることなくともに歩み続けることのできる交わりである。そのような交わりを形成するための一助として、ぜひ本書を手に取り、その「問い」を受け取っていただきたいと願っている。
評・塚本良樹=キリスト者学生会[KGK]副総主事

『この理不尽な世界で「なぜ」と問う ICU式「神学的」人生講義』
魯恩碩著、CCCメディアハウス、1,870円税込、四六判

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