裏方として音量音質の調節などの働きをする音響(PA)。今では教会の礼拝、特別集会、コンサートなどで欠かせない重要な働きの一つだ。音響の良し悪し一つで礼拝やコンサートの成否が決まってしまうこともある。小林仰志(こうじ)さん(単立・神の家族主イエス・キリスト教会員)は、有限会社エムエージー(鈴木幹夫代表取締役)のサウンドエンジニアとして、全国の教会を飛び回る。そんな小林さんが音響に興味を持つきっかけとなったのが、教会の奉仕だった。【中田 朗】

教会の機材一新を機に
自分が音響担当に

きっかけは高校2年生の時。両親が牧師をしている茨城の教会で、音響機器を新しくしたことだった。だが、機器を新しくしたものの、誰も音響に詳しい信徒はいなかった。誰も担当する人がいない中、小林さんが担当することになった。

小林仰志さん

とは言え、小林さん自身も使い方がよく分からなかった。「礼拝中『音が聞こえない』と苦情があって音量を上げると、今度はハウリング現象が起きてキンキン鳴り出す。お祈り中にハウリングさせてしまったこともあった。でも、原因がよく分からない。教会の皆さんからは、音が大きい、聞こえないなど、苦情がいっぱい来る。『正直、もうやりたくない』と思い、父には『音響奉仕辞めます』と言いました」
その時、「インターネットに音響に関する情報が載っているから、調べてみてはどうか」と、父から言われた。調べていくうちに、「同じ形のマイクでも特性が違ったり、スピーカーには横と縦に音が広がる範囲が決まっている」と知った。今まで知らなかった情報に触れ、音響に関する興味がどんどん湧いてきた。そして、「もっと音響の勉強をしたい」と高校卒業後、東京の音楽専門学校に入学し、PAエンジニアコースを専攻。音響の基礎的な知識や幅広い技術、機材の扱い方など、音響全般について学んだ。

僕の背中をつかんで引っ張った人がいた

当初は、「学びを終えたら地元に帰ろうと思っていた」と言う。ところが、次第に「有名なアーティストと一緒に仕事をしたい」と気持ちが変わっていった。在学中、都内のある音響会社でアルバイトを始め、テレビでよく見かけるような有名アーティストの音響を手掛けるようになった。専門学校卒業後は地元には戻らず、全国ツアーに同行。週に1回家に帰れればいいハードな生活を送っていた。
だが、仕事のプレッシャーや、上司からパワハラを受けるなどの人間関係のストレスから、次第にお酒におぼれるようになっていった。「日曜日も仕事なので、教会からも神様からも離れた。嫌なことがあれば強いお酒を飲んで、忘れて、仕事に出て、また嫌なことがあれば酒を飲んで、の繰り返し。当時は完全に自分自身を見失っていました」

音響の調整中

ついにうつ状態に陥り、「いっそこの世からいなくなれば楽になる」と、ある日、電車のホームから飛び降りようとした。しかしその時、「僕の背中をつかんで引っ張った人がいた」。後ろを振り返ると、誰もいなかった。代わりに、「わたしはあなたとともにいる」(イザヤ41・10)の御言葉が迫ってきた。「なぜ、自分が音響を学びに上京したのか。それは神様のため、礼拝奉仕のためだったのだ」。その時、小林さんは音響で神様に仕えようと決心した。

入口付近の席に座る人にも御言葉を伝えたい

この体験を機に会社を辞めた。数年ぶりに教会の礼拝にも出席。その教会の牧師といろいろ話すうちに、社員全員クリスチャンで、主に教会やキリスト教関連の集会、コンサートなどの音響を手掛けるエムエージ―を紹介され、そこの社員となった。
現在、小林さんはチャペルコンサートや集会でのオペレーション、礼拝堂の音響、照明、映像、配信設備のプランニング、設置、相談、使い方の説明などで、全国を飛び回る。「コロナ前は年間150以上の教会に出かけていました」と話す。今は17教会同時進行で音響の仕事を手掛けている。
小林さんは、「100の教会があれば100通りの音の鳴り方がある」と話す。「大きな教会、小さな教会、天井の高い教会、奏楽はオルガンだけの教会、バンドスタイルの教会など、礼拝堂のサイズ、スタイルに合わせて音場調整をしている。特に、礼拝で御言葉をはっきり伝えることを大切にしている。初めて教会に来る人は、いちばん前の真ん中に座る人はまずいない。たいてい入口付近か左右後方の椅子に座る。その席に座った人に御言葉をしっかり届けることが大切だと思っています」
「いい音響機器をそろえているのに、9割の教会が使いこなせていない」とも言う。「宝の持ち腐れですね。教会奉仕者は分からない中でも礼拝で音響機器を使いこなさないといけない。そして、音が聞こえない、お祈り途中でハウリングしたと、みんなから文句を言われながら奉仕せざるを得ない。まさに音響奉仕を始めたばかりの私と同じ。でも誰かに教えてもらっていたら、こんなに苦労しなかっただろうと思う。そういう人たちの助けになりたい。日本中の教会の音響が変われば、必ず日本にリバイバルが起きるだろうと思っています」
信条は「小さなことに忠実に」だ。「どんな打ち合わせでも、マイク1本の交換の話でも、親身になって耳を傾け、喜んでもらえる提案ができるようにと思っている。一度、自分を見失った者だからこそ、神の国と神の義を第一に求めることを意識しています」と語った。

クリスチャン新聞web版掲載記事)