井上明日香さん

「喫茶店伝道がしたいな。賛美が流れる中で自然にみことばに触れて、ゆっくりと過ごして元気になって帰ってもらうような、そんな店を開きたいな」。井上明日香さん(三木ホーリーチャペル)は、信徒伝道者を目指して学んでいた神学校で、そんなビジョンを抱いた。その願いが応えられたのは卒業の年。昨年秋、故郷の兵庫県小野市の祖父の留守宅を母から委ねられた井上さんは、古い住宅を改装して「喜びの喫茶店ジョイズキッチン」を開業、近所の人々の安らぎの場に再生させた。(4月3日号で一部既報

 

井上さんは国家資格である製菓衛生師の資格を持っている。子どもの頃からお菓子作りが好きで、夢はパティシエだった。高校は製菓衛生師コースのある学校を選んだほどだ。教会で月1回、バースデーケーキを焼くのは井上さんの役目。料理上手の森本恵子牧師の手も借りて、楽しい奉仕のひと時だ。

「これが伝道に生きればいいよね」

いつかのそんな会話が現実になった。

 

疲れた心 温めた教会

井上さん特製のホールケーキ

 

高校卒業後に就職したスーパーマーケットで、激務と人間関係に疲れ果てた。
「そんな中で、部下思いの課長さんに出会いました。仕事も一生懸命、自分の好きなことも楽しんでいて、そんな姿に触発されました」

再び夢を追いかけたくなった。地元の人気菓子店に転職して現場に入ったが、長時間労働が当たり前の職人の世界で行き詰まってしまった。

「体力が落ちると精神面も落ちます。退職してうつうつとしていたとき、姉が行っていた教会に初めて行きました」

森本恵子牧師と恵牧師親子を中心に、家庭的で温かな教会に癒やされる思いだった。

「人と会うのがしんどかったときに、女性の多い穏やかな環境はとても心地よかったです。神様はその人に合った救いの道を用意してくださるんですね」

教会ではしょっちゅう集まってバーベキューパーティーやたこ焼きパーティーを楽しんでいた。人間関係に疲れた心が、温かい人たちとの交流で回復し、福音がすっと入ってきた。2016年のイースターに洗礼を受け、2年後に信徒伝道者を目指して生駒聖書学院に入学した。

「神学校はみっちりみことば漬け。大変でしたけど楽しかったです。寮生活は人間関係が問われます。『人はその友によって研がれる』と聖書にあるように、色々な人に接することで研がれていったなと、実感しています」

 

たくさんの人の愛に包まれたカフェ

民家を改装したアットホームな店内 (施行:株式会社ケントイケオ=稲垣和昌代表取締役)

 

「将来、人がほっとするようなことができたらいいね」

教会で聖書の学びをしていたとき、井上さんはそんな思いを打ち明けたことがある。精神的に行き詰まったとき、わずかな時間でもほっとできる場所があれば、人はなんとか元気を取り戻して、次の一歩が踏み出せる。井上さんの実体験だ。そこにおいしいお茶とお菓子があれば、さらにパワーアップできる、と。

卒論で喫茶店伝道のビジョンをつづった卒業後に、道は開かれた。祖父の遺した家を母から託されて、古い住宅は伝道の場によみがえった。「神様のためなら」と、牧師兼建築業の神戸フルゴスペルチャーチの稲垣和昌氏が格安でリフォームを請け負ってくれた。メニュー作りは森本牧師らが協力してくれた。近所の祖父の知り合いも喜んで足を運んでくれる。

「たくさんの人の愛に包まれてスタートした店です」

ジョイズキッチンは別名〝隠れ家カフェ〟。普通の家のリビングにいるようなくつろぎ感あふれる、ほっとできるカフェだ。ビーフシチューやカレーなどのランチはもちろん、井上さん一押しのケーキセットも人気メニューだ。
「ふわふわのシフォンケーキやさくさくクッキーを楽しんでください」
井上さんのおいしく楽しい伝道生活が軌道に乗り始めた。
【藤原とみ子】

クリスチャン新聞web版掲載記事)