【書評】”うめき”と”可能性”共に歩みたい「この道」 『フクシマから福島への道』評・若井和生
東日本大震災での原発事故を経て、福島が「フクシマ」とカタカナ表記されたことに、戸惑いと悲しみを覚えた多くの方々がおられたと思います。『フクシマから福島への道』というタイトルに込められているのは、「かつての福島に戻りたい」との願いだけではないでしょう。「神の祝福あふれる福音の島に変えられたい。」 福島の信仰者たちのそんな願いが、このタイトルには込められていると感じました。
これは、大震災後の11年を福島にあって歩んで来られた19人の方々の証言記録集です。「この十一年間、どれほど私たちのいのちと人権が蔑ろにされてきたことでしょう。(147頁)」。 地震や津波だけではなく原発事故にもとづく放射能汚染という苦難の中で、多くの福島の方々は傷つき、それでも懸命に生きてきました。それらの人々を代表して貴重な証言を残して下さった19人の方々に、心からの感謝と敬意を表したいと思います。
苦境の中より発せられたうめきのことばがあり、いのちを真剣に顧みない国に対する告発があり、多くの祈りと支援により支えられてきた喜びと感謝の告白があり、全体がまるで詩篇の賛美のようであると感じられました。
さらに苦しみを自らに取り入れてエネルギーとしていく姿、社会的弱者を可視化して寄り添い仕えていく姿勢、閉ざされた共同体への粘り強いアプローチ、分断された関係の中で「共に生きる」姿を示す教会の可能性など、この11年間、福島の教会に与えられた経験の豊かさに圧倒される思いでした。日本の宣教は福島から始まる、と強く思わされた次第です。
「フクシマから福島への道」をこれから歩いて行くのは一体誰なのでしょう。福島の方々だけにこの道を歩かせてはいけません。この道を共に歩む私たちすべてが、必ず恵みを受けると思わされました。
(評・若井和生=単立・飯能キリスト聖園教会牧師)
『フクシマから福島への道』
福島県キリスト教連絡会編、
いのちのことば社
1,980円税込、A5判
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