教会は下からの「復興」のモデルに 福島で「仕事おこし」と「協同労働」の試み
稲垣氏
震災・津波・原発事故・風評被害、コロナ禍といった複合災害によって、共同体、仕事などの基盤が崩され、人々が生きる意味を再考している。そのような中、福島県の教会では、「仕事おこし」による新しい取り組みへの提案が話し合われた。これは少子高齢化、人口減が進む日本と、そこにある教会の「復興」へのヒントになりそうだ。
公共神学を提唱してきた稲垣久和氏(東京基督教大学名誉教授)が中心となり、シンポジウム「地域社会と協同労働~みんなで創り上げる『公共圏』」が、福島県いわき市のグローバルミッションチャペル(平キリスト福音教会)で6月28日に開催された。【高橋良知】
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稲垣氏は4月から福島県に滞在している(6月19日号参照)。賀川豊彦の協同組合運動を研究し続けてきた途上において、戦後の新たな協同組合運動の中で近年の飛躍が注目されるワーカーズコープ(日本労働者協同組合)と出会い、このグループが推進する「協同労働」に注目した。シンポではワーカーズコープから協同労働の説明と映画「医師中村哲の仕事・働くということ」の紹介、いわき市内3教会(増井恵・泉グレースチャペル牧師、佐藤彰・福島第一聖書バプテスト教会アドバイザー牧師、森章・グローバルミッションチャペル宣教使牧使)から「仕事おこし」の事例が話された。
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「協同労働は、労働者が『雇われる』という形態ではなく、自ら出資し、経営に意見を反映させていく。働く人皆が経営者。働くことを通してより良いまちづくりを目指す」とワーカーズコープ南東北事業本部の小椋真一氏は説明する。「考え方の違う人たちとも、とにかく話し合うのは、ある意味面倒くさい。しかし、私たちがめざすのは、人間が自由で創造的で人間らしく生きること。暮らし方、生き方から働き方を考え、社会とのかかわり方を変える試みです」
今年10月から、協同労働の在り方を整備した労働者協同組合法が施行される。「多くの人がこの働き方を志向し始める背景に、震災、パンデミック、気候変動、戦争など人類史的な危機が私たちをおおう。一人ひとりの暮らし、生き方を問い直す時ではないか」と強調した。
稲垣氏は講演で、公共圏の在り方を振り返り、「教会は震災を通して公共圏における使命を学んだ。そもそも教会は修道院の時代から奉仕(ディアコニア)の使命を重視してきた。隣人愛の実践はマザー・テレサや中村哲に学ぶものがある。賀川は、スラム街に入り込み当時の急激な上からの資本主義化からはじき出された人たちと共に生き、労働者の自立のために労働組合や種々の協同組合運動をリードし、これら活動を教会の働きと合わせて『神の国運動』と呼んだ。日本にも仏教などにより中世から相互扶助の仕組みがあったが、近代になりトップダウンの産業化が進んだ。賀川はある意味、庶民の潜在能力を掘り返したともいえる」と話した。
稲垣氏の資料から
公共圏について、独自の四セクター論すなわち:①再分配(行政など)、②交換(市場経済)、③互酬(協同組合などの相互扶助)、④贈与(家族、宗教)で整理した(右上図参照)。「現代世界では圧倒的に①、②の行政、企業の結託が強く、公共圏をおおっている。これに少しでも対抗するには③、④の協働作業が望まれる」と指摘した。
「日本の教会は小さいが、ものすごく可能性がある。労働者協同組合法では、3人から働きができるようになる。大資本でどんどん開発するのとは違うボトムアップの地産地消の在り方ができれば、戦争だろうと災害だろうと持続可能に生き抜く力になるのではないか」と期待した。
教会の事例と応答は次週以降改めて紹介する。
(クリスチャン新聞web版掲載記事)