本作の原案となった父の著書を手に谷口さんを取材した長崎の足跡をたどるイザベルさん (C)坂本肖美

1945年8月9日午前11時2分。77年前、長崎に原爆が投下されたその日がまた巡って来る。日本原水爆被害者団体協議会の代表委員を務めた谷口稜曄(たにぐち・すみてる、2017年逝去、88歳)さんは16歳だったその日被爆した。眼下の公園で挨拶したばかりの少年二人は爆風で吹き飛ばされ目の前に落ちてきた。谷口さんも背中一面が焼けただれ生死をさまよったが、「こんな所で死んでたまるか」の一念で命を取り留めた。

その日から33年後、戦争被害に遭った子どもたちに特別な関心を抱いて世界を取材旅行していた作家でジャーナリストのピーター・タウンゼンドさんは、はじめて長崎を訪れ数人の被爆さやらと出会っている。その4年後に再来日し、長崎で6週間にわたり谷口さんを取材したピーターさん。1984年に原爆投下にまつわる日米政府と軍部の記録と共に被爆者の谷口さん体験をまとめたドキュメンタリー小説『長崎の郵便配達』を上梓し、谷口さんの証言を欧米諸国に紹介した。本作は、父ピーターさんの著書を原案に、娘で女優のイザベル・タウンゼンドさんが、ピーターさんと谷口さんの心の絆を紐解きながら夫と二人の娘と共に長崎の町を訪ね歩いていく。

↓ ↓イザベル・タウンゼンドさんのインタビュー記事↓ ↓
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川瀬監督が今も残るピーターさんの書斎にイザベルさんを訪ね、ピーターさんの思い出を聞く。英空軍パイロットとして英雄的活躍を果たしたピーター・タウンゼンドさんは、国王の侍従武官時代にアン王女とのロマンスが報じられ破局、映画「ローマの休日」のモチーフともいわれた。失意のうちに世界旅行へ旅立った。

川瀬監督が今も残るピーターさんの書斎にイザベルさんを訪ねる。父ピーターさんの思い出を語る。戦争中は英軍パイロットとして英雄的活躍を遂げたピーターさん。それは、多くの兵士を殺傷してきた痛みの痕でもある。戦後、アン王女とのロマンスが報じられ、映画「ローマの休日」のモチーフともいわれた。だが悲恋の幕が下り、失意を抱いて世界旅行へ旅立った。

浦上天主堂を訪ねるイザベルさん (C)坂本肖美

父の著書で追想する谷口さんの戦後も厳しく、すさまじかった。原爆資料館の記録映像にも登場する治療を受ける谷口さん。被爆者は結婚できないとまで言われたが、出会いを得て妻子とともに家庭を気づいてきた恵み。身体に負った被爆の痕は「恥ではない」と最後の被爆者の一人と自覚しながら核廃絶を訴え続けた。長崎の取材を終えフランスに帰国すると、イザベルさんに学校での演劇演出のオファーがくる。父と谷口さんが互いに篤い信頼を交わして遺したメッセージが、原案著書の日本語版完訳プロジェクトから本作ドキュメンタリーが生まれ、新たな世代へと伝えるべきメッセージがハーモニーを奏でているようで胸が熱くなる。

日本語字幕は「聖書で読み解く映画カフェ」主宰者で『字幕に愛をこめて』の著書でも知られる小川政弘さんが翻訳を担当している。戦後、50~60年代盛んに実施された核実験の時代背景を知るその訳出もまた、物静かに核戦争を拒絶するピーターさんと谷口さんの気概を伝えてくれている。【遠山清一】

監督:川瀬美香 2021年/日本/英語・フランス語・日本語/原題:THE POSTMAN FROM NAGASAKI 配給:ロングライド 2022年8月5日[金]よりシネスイッチ銀座ほか全国ロードショー。
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