【レビュー】アメリカの精神文化、本音、かいま見える 『アメリカ・キリスト教入門』評・丸山悟司
関西学院大学法学部宗教主事・教員である著者の大宮有博氏は、高校生の時に交換留学で渡米してアメリカ史を学び、後に神学校でも学んでいる。アメリカでの生活と実体験、また、その後の研さんによるアメリカの文化と歴史に対する造詣の深さが、本書全体を通して伝わってくる。
キリスト教、特にプロテスタントはアメリカの精神文化の基層であることから、アメリカのキリスト教史を学ぶことで、アメリカの精神文化をより立体的に理解でき、さらには、世界情勢を分析する際に新たな視点が得られると大宮氏は述べる。
本書を、キリスト教を専門としない大学生向けの教科書として執筆したということであるが、神学校の教科書として用いても全く遜色のない内容である。各章の末尾には、テーマについてより深めるための「課題」と文献が添えられており、意欲的な読者の動機づけになる。
網羅している歴史の範囲も、ピューリタン時代からバイデン政権までと幅広く、節々で最新のデータ、詳細な統計が盛り込まれて論旨を裏付けている。諸教派の生い立ちや課題、LGBTQ+をめぐる主流教派の分裂にも言及し、アメリカ・キリスト教の光と影が浮き彫りにされている。
緻密な歴史描写とともに、著者自身の事実分析、洞察も随所に見られ、読み応えがある。例えば、コンテンポラリー・キリスト教音楽に関して、礼拝音楽の「コンテンポラリー」は時代とともに変化していくとの指摘。また、2020年の大統領選で白人福音派がなおトランプを支持した理由として、その国内政策にとどまらず、イラク戦争以降、絶え間ない戦争の連続であったアメリカで、トランプ政権の四年間は戦争がなかったこと、そこにアメリカの本音が垣間見える…などである。
激動・激変の時代を生きる私たちに、世界の動向を俯瞰(ふかん)的に観(み)る視座を提供してくれる指南書である。著者の熱意とその労に敬意を表したい。
(評・丸山悟司=御園バプテスト教会牧師、聖契神学校教師)
『アメリカ・キリスト教入門』
大宮有博著、キリスト新聞社、2,860円税込、A5判
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