震災という大きな痛みを通して主が与えてくださった良きものの一つは間違いなく、災害とその痛みを聖書的に捉え、対話を続けていく神学の営みそのものだと私は考えている。本書はそのような営みのひとつの、直近の記録だ。

あえて「営み」と書くのは単に講演が記録されているだけでなく、各講演の中からも、特別寄稿や実行委員全員が記した「あとがき」を通しても、主の教会の息づかいが感じられるからだ。大震災以降も頻発する災害や、誰もが「被災者」となった新型コロナのパンデミックなどの経験の積み重ねは、この神学の営みが「この痛む世界に置かれた教会のこと」であるという面をより深く、実感のあるものとして理解させられたのではないだろうか。

主講師であるマクグラス先生をはじめとする先生がたのそれぞれの講演からは「そうそう」と共感し「ああ、なるほど」と新たな視点が与えられた。シンポジウムで聞くことができなかった青年の部でのお二人の講演を読むことができるのも実にありがたい。

個人的に心に留まったのはマクグラス先生の「古代や中世には、悪や苦しみが神への信仰と矛盾するとは考えられていませんでした」という件(くだり)だ。苦難が信仰を揺るがすものになりやすい現代人の受け止め方とはずいぶん違う。

苦難の中にあっても私たちの苦しみを知っておられる神が共に歩んでくださることにこそ希望を持つ信仰、私たちが互いに助け合い慰め合う者として召されている、そんな信仰による豊かな生き方が、単なるお題目ではなく、リアルな信仰者の生き方として浮かび上がってくる。

特別寄稿で藤原先生が述べている「大災害それ自体だけにフォーカスしないで、その背後にある神の愛を基礎に考察する」という姿勢には大いに共感する。この痛む世界で神に何を願うのか、神は何を願っているのか、その問いはこれからも続く。本書は災害大国である日本の教会にとって、大災害を神学する営みの大きな助け、道標になるものではないかと思う。

(評・佐々木真輝=保守バプテスト同盟・北上聖書バプテスト教会牧師)

 

『大災害の神学 東日本大震災国際神学シンポジウム講演録』 

藤原淳賀 編、アリスター・E・マクグラスほか 著、キリスト新聞社、1,980円税込、A5判

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