キリスト者にとって「傷つきやすさ」は弱さの象徴とみなされ、克服することが信仰の勝利であるかのような粗雑な扱いを受けてきたように思います。本書でも引用されているヘンリ・ナウエンの著書「傷ついた癒し人」では「傷つきやすさ」を人の独自性として捉えています。傷を負うことは決して望ましいことではありませんが、自らの傷つきやすさを個性として受け止めることで独自性に目が開かれていきます。

著者の高橋先生はご自身の傷つきやすさと経験された苦悩を正直に打ち明けてくださっています。大変失礼な言い方になりますが、70歳を目前にされた著者がご自身の傷を開示されたことが何よりも驚きです。ナウエンの傷に対する問いかけを全身全霊で受け止め、苦悶のなかで紡がれた言葉がとても優しいのです。傷が癒やしの源泉となるとの逆説が本書を読み進めていくうちに自然と腑に落ちいていきます。

本書の11章「怒りの感情への向き合い方」のなかで、「健全な怒り」についての解説がとても印象に残りました。「狡猾な人の行動に腹を立てなくなったら、『神のかたち』としての人間をやめてしまうことになりはしないでしょうか。」(170頁)この問いかけは本書を貫く核心的な主張だと思います。感情を健全に扱うことで「神のかたち」は回復されていきます。

反対に感情を抑圧し、蔑(ないがし)ろにすると、「神のかたち」を喪失することになります。著者は神の御前で「心を注ぎだす」ことの大切さを繰り返して語ります。感情を表に出すことに抑制的な力が働く日本社会においては、大きな課題ではありますが、著者自身が詩編の著者たちに自らを重ねながら、「心を注ぎだす」ことを身をもって示しています。

本書は「心の注ぎ方」の手引書として、心が傷つき、苦しみや悲しみに押しつぶされそうになるたびに、手にとって読み返していただきたいのです。詩篇の著者たちと共に「神のかたち」を取り戻していくことへと導かれることでしょう。
(評・豊田信行=単立ニューライフキリスト教会牧師)

『心が傷つきやすい人への福音』 高橋秀典 著、ヨベル、1650円税込、四六判

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