ウクライナ伝統の飾り物ディドフ、パヴーク
クリスマスは家族行事で

ロシアのウクライナ侵攻から10か月を迎えようとしているウクライナ。そのウクライナの伝統的なクリスマスとは。その飾り付けとはどんなものなのか。一般社団法人ジャパン・ウクライナ・パートナーズ代表理事の末導ホルツ欧里香さんに話を聞いた。

手作りのディドフ(左)とパヴーク

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まず、ウクライナは旧暦(ユリウス歴)を用いるため、1月6、7日にかけてクリスマスを祝う。クリスマスに欠かせないものは、ディドフとパヴークだと言う。「ディドフは麦の茎などを使って作った飾り物で、1月2日に作り始め、6日のイブの日に家の中に飾る。オートミールの穂や麻なども使ったりし、麦の茎にススキを織り込んだものもあります」
「パヴークは、茎のしっかりした麦わらで作られた幾何学模様のような飾り物で、クリスマス・スパイダー(クモ)とも呼ばれている。ウクライナでは、スパイダーは家庭の調和と幸福の象徴。イエスの母マリアと赤子のイエス・キリストが隠れていた洞窟の入口に巣を作り、いのちを助けたという伝説もあり、クモの形をしたパヴークはクリスマスの装飾品の一つとなっています」
クリスマスにディドフやパヴークを飾る習慣は、もともとは古来の習慣がキリスト教の中に入ってきたものだと語る。

キリスト教と古来の習慣が融合 自然素材の材料で飾り物を制作

ススキを織り込んだディドフ

「ディドフは先祖の木と呼ばれ、先祖を敬うものとして飾られていたもので、キリスト降誕との関連性は直接的にはない。実際、ディドフを飾る習慣はキリスト教がウクライナに入ってくる前からあった。しかし、異教に由来するディドフとキリスト教が上手く組み合わさり、ウクライナ文化の中に融合した形で共存し、現在に至っている。同様に、パヴークもクリスマス行事の中に入ってきている。ウクライナでは、キリスト教の習慣の中にウクライナ文化が融合し、このようなクリスマスの伝統になりました」
ちなみに最近では、ウクライナの伝統を復活させようと、ディドフのデザインを競い合うようなイベントも行われているという。またパヴークも、この幾何学的模様が安定感を与えるとして、クリスマスに限らず、インテリアとして一年中飾る家庭も増えてきていると語る。
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ウクライナの食事についても話を聞いた。「ウクライナでは、クリスマスイブには肉を出してはいけない。代わりに、クチャを出す。クチャはクリスマスの伝統食で、小麦の種やレーズン、クルミ、ケシの実をつぶしたものに砂糖を混ぜて煮込んだ甘いおかゆ。またボルシチ、ジャガイモやキノコの料理、野菜のマリネなども並ぶ。イエスが誕生した後の7日には、肉や魚料理を出して食べる。欧米や日本では、イブに七面鳥や鶏肉を食べる習慣があるが、ウクライナでは、イブに肉料理を食べない習慣を厳密に守っている家庭は多いです」

パヴークの工作をする在日ウクライナ人の子どもたち

ウクライナでは、クリスマスは家族の行事として定着しているとも話す。「ディドフやパヴークを家族みんなで作り、飾り付けをする。イブにはみんなで食卓を囲んでクリスマスを祝う。日本では、お正月のほうが家族行事という印象が強いが、ウクライナではクリスマスが家庭行事。お正月は友達と一緒に外に出かける日なのです」
「ウクライナ人は、自然と親密な関係の中で生きてきた」ことも強調し、こう結んだ。
「ウクライナ人の考え方のベースには、人は一人では生きてゆけず、自然の恵みを受けながら生きていく、自然の世界から踏み出してはいけない、といった、自然との共存関係がある。だから、ディドフやパヴークといったクリスマスの飾り物も、自然素材でできている。まさにSDGS。自然を大事にし、持続可能な世界を作る、これがウクライナの文化だ。自然を守り、また自然に守られる。このウクライナの伝統文化を、子どもたちにも語り継いでいきたいと思っています」【中田 朗】

2022年12月18・25日号掲載記事)