写真=酒井羊一

 

奈良市のNPO法人みぎわは、障がいを持って生まれた赤ちゃんの特別養子縁組をあっせんするという、日本で唯一の働きを担っている。一般メディアでも紹介されて大きな反響を呼び、11月には公益財団法人糸賀一雄記念財団から、第8回記念未来賞が授与された。法人の立ち上げに携わった理事の松原宏樹さんは、自身も2人のダウン症と難病の赤ちゃんの養親となった。障がいを持つ子どもの親になって初めてその大変さを知り、共に生きる幸せも知った。願いは障がいを持つ家のない子どもたちのための『小さないのちの帰る家』(仮称)を作ることだ。 【藤原とみこ】

 

障がいある赤ちゃんの
「命をつなぐ」ルート作る

 

みぎわのスタートはホームホスピスからだ。松原さんは兵庫県尼崎市で牧師をしていた時、ホームレス支援をしていた経験がある。尼崎はホームレスの多い町。教会の周囲にもそんな人たちがたくさんいた。

あるとき信徒から「神が愛だというなら、この人たちを助けないといけないのではないか」と、言われて考えた。

「今社会は自己責任論がまん延しているが、この人たちはなりたくてホームレスになったわけではない。隣り人を必要としているのはこの人たちだ。この人たちに人間らしい生活をさせてあげないといけない。これはクリスチャンがやらないといかんと思いました」
教会に来るホームレスの人を生活保護につなげたり、がんになった人の看取りをした。 奈良の教会に移って後、尼崎時代から世話していた人を看取ったことを契機に、現在法人代表を務める櫻井徳恵さんらと共にホームホスピスを始めた。

障がい児の養子縁組の働きを始めたのは、年間約20万と言われる中絶の実態を知ったことがきっかけになる。現在法人の協力産婦人科医になっている久川豊医師を訪ねて「私たちが命をつなぎますから、どうか最前線で中絶を止めてください」と、申し出た。そのとき久川医師から頼まれたのは、出生前診断で胎児の異常が疑われたら90%が中絶するため、ダウン症の赤ちゃんの「命をつなぐ」ルートを確立してほしいということ。そうすれば中絶以外の第3の道を勧められる、と。障がいのある赤ちゃんの養子縁組は行政も手つかずの状態だった。障がいがあることで養子縁組のテーブルに乗らないのだ。

「まずは命の確保。その後は温かい家庭につなげてあげたいと思いました」
こうして、思いがけない妊娠や課題を抱える妊婦の相談・サポートと、親が育てられない赤ちゃんの特別養子縁組をまとめる「命をつなぐ」働きを開始した。草の根で養子先を探し、現在10人の赤ちゃんに新しい家ができた。

 

置き去りにされた子に
「お家へ帰ろう」と呼びかけた

松原さんは現在3歳の大和くんと2歳の恵満(えま)ちゃんを家族として迎えている。大和君は多くのダウン症児のように心臓や肺に合併症があるが、手術をして今は元気に児童発達支援センターに通っている。恵満ちゃんはwest症候群という難病で24時間介護の必要な重度障がいがある。昨年の一月に恵満ちゃんを引き取ってから、松原さんは牧師を辞めた。礼拝中も子どもたちを世話する必要があった。両立は難しいと判断した。

障がいの重い大和くんは、養子先が見つけにくかった。妻の斉子(なおこ)さんと共に両親に面談した松原さんは、夫婦が一家心中を考えるほど追い詰められていることがわかった。僕たちが引き受けますと、松原さんは言った。

恵満ちゃんは病院に置き去りにされていた。病室の奥に、新生児用の産着がぱつんぱつんになるほど長期間置かれていた。両親は迎えに来る意思はないと聞いた。医師もどう成長するかわからないほど重度の障害を負って、黙って寝ている赤ちゃんに、松原さんは「お家へ帰ろう」と、呼びかけた、、、、、

2022年12月18・25日号掲載記事)