信仰告白として芸術を考える 古代神殿から近世まで 志学会講演会で中谷さん講演
キリスト教美術の背景には、ユダヤ教や古代地中海の神殿文化がある。さらにカトリックとプロテスタントの違いとは。若手のキリスト教信仰をもつ研究者を励ます志学会による第38回講演会が2022年11月に開催された。「『視ること、聴くこと、考えること』―芸術と信仰の触れ合い―」と題して、西洋史学が専門の中谷博幸さん(香川大学名誉教授)が自身の信仰と研究生涯を交えて語った。【高橋良知】
「良く生きる」ための市民講座で
京都大学在学中に先輩に誘われ、キリスト者学生会の集会に参加し、信仰を持った。ルターへの関心などを出発点に近世ドイツ史を研究した。2001年に香川大学教育学部教授、18年に退職後、名誉教授。専門研究を進める一方、一般市民向けに「キリスト教芸術との対話」をテーマとした講座を15年継続してきた。今回は、この内容を中心に話した。
市民講座の内容を踏まえた著作『キリスト教芸術との対話』(未知谷、2019)では、古代地中海神殿文化とキリスト教美術との関連を基礎に、豊富な図版とともに、旧新約聖書の記述にそって関連作品を評価していく。
きっかけとなったリーメンシュナイダー作品。講演スライドから。以下同
専門家ではない中谷さんが、美術を追究するようになったのは、ドイツ・ゴシック後期の彫刻家リーメンシュナイダーの作品との出会いがきっかけだった。「造形芸術は見るものと思っていたが、『聴く』ものでもあった」と実感した。この作品を分かち合いたいと思っていたころに大学の市民講座の声がかかった。市民教育に力を入れていたスイスの歴史家ヤーコプ・ブルクハルトからも刺激を受け、講座を続けた。
芸術の意義について「単に生きるのではなく、良く生きること(教養)を可能にする。芸術は、時間と空間とジャンルを超える。文化継承と交流の重要な核になる」と語った。さらに自身が美術と向き合う姿勢として、「感性を中心として全人格的に接し、作品から受けた感動などをことばと論理をもって説明する」という「信仰告白的性格」を挙げた。
地中海神殿文化から宗教改革まで
「神の顕現」(神はいかに自らをあらわすか)、「神を礼拝」(神を礼拝することはいかにして可能となるか)、という二つの問いで地中海世界の神殿礼拝文化をたどった。「キリスト教は、神殿と動物の犠牲という宗教形態の基本枠組みを背景にしつつ、神の犠牲と人の側の信仰によって、普遍化をはかった、、、、、
(2023年02月12日号 06面掲載記事)