香港民主化のための祈りを、有志の牧師らが超教派で呼びかける「香港を覚えての祈祷会」が、7月22日、特別企画として講演会を開催した。関西学院大学教授・京都大学名誉教授の芦名定道氏が、「東アジアの民主主義と平和の危機~キリスト教の役割と可能性」と題して講演。大阪市、大阪クリスチャンセンターの会場とオンラインを合わせ、約100人が参加した。【間島献一】

芦名定道氏

芦名氏は講演の初めに、「現代世界をどう見るか」について指針を示した。今日の世界を、もはや真実を語ることができない「ポスト真実(ポスト・トゥルース)」が深刻化した世界だと指摘。その上で、東アジア情勢を論じるのに先立ちウクライナ問題を、そこから時代をさかのぼり、ソ連崩壊やNATOの東方拡大などの経緯も視野に入れ、「合理的推論」を提示した。

9.11後に当時のG・W・ブッシュ米大統領が、テロとの戦いを「クルセード(十字軍)」と表現したことを例に挙げ、価値観を守るための戦いについて、その正当性を批評した。

民主主義と独裁政治、善と悪、などの二元的な価値観・世界観は、聖書の歴史観と異なる、と指摘。100%の善も100%の悪も存在しない、という政治的両義性を、創造の善性と原罪という、聖書が語るリアリズムに基づいて明示した。

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次いで東アジア情勢を語った。米中の二国間対立ばかりが強調されていることを危惧しつつ、日本の防衛政策が南西の方角へ拡大していった経緯を整理。白井聡、山内進、エマニュエル・トッドらを引用して、現代世界におけるアメリカの正義を問い直す必要性を指摘した上で、安保3文書との関連性を含め平和憲法の争点を明示した。

近代以降、国家、学術、マスコミの総体による隠蔽や歪曲(わいきょく)が行われ、真理を見抜くことが困難になっていることを指摘。また、「〝中国の脅威〟という、戦争を煽(あお)る文脈で語られる現実の中で、平和主義は理想論に過ぎないのか?」という疑問を投げかけた。

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キリスト教史における戦争と平和論については、絶対平和主義、聖戦論、正戦論、と大きく三つに類型立てて解説。キリスト教と国家の関係について、ローマ帝国で国教とされたことに始まり、教会は国家の政策を正当化する権威となり、自律性を喪失した、という依存関係の歴史を解説した。

近代以降の自由教会も、国家との関係の再構築には至っていない現状に触れつつ、国家は敵ではないが、依存せず自律し、批判的な協調を確立する必要がある、と提言した。

また、「民主主義は戦争で守るものなのか?」とも問いかけた。自由民主主義をとっていても、全体主義国家に軍事的に対抗した時、民主主義全体は失われる、と指摘し「同じ土俵に登らない」と、平和主義の意義を明示した。

ここで、抵抗運動について、暴力的なものより非暴力的なものの方が、成功例が多いことを示し、「非暴力抵抗・平和主義は無力ではない」ことを強調。

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最後に、日本のキリスト教が求められることとして、「西欧的伝統における穏健な国教会あるいは自由教会を核とした平和のネットワーク」を提言。理解、共感、連帯を促した。

また、「戦闘開始後にできることは多くない。早期終結させることくらいだ。開始前に何をするかが重要。戦略を練り上げ、周到な準備を進めることだ」と、さらなる祈りを呼びかけた。

「知恵が求められている。難問です」と総括しつつ、マタイ10:16の引用で参加者を励ました。

対談する芦名氏(中央)、松谷氏(右)

講演後には、芦名氏と松谷曄介氏(日本基督教団牧師、金城学院大学宗教主事)の対談で、内容が深められた=上写真=。会の最後には、森島豊氏(日本基督教団牧師、青山学院大学宗教主任)が「12人の牧師が手弁当で続けている会です。今回のような公開講演会も続けたい。財政的バックアップをお願いします」と挨拶した。

2023年08月06日号 01面掲載記事)

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