河野 優 石神井福音教会協力教師 前日本同盟基督教団法人事務主事

牧師館での礼拝は契約違反?

これまで教会堂を所有する際の様々な事例について触れてきたが、今回は教会堂の賃借にかかわる事例を見てみたい。この場合の「借りる」とは、時間貸しの会議室やレンタルスペースではなく、賃貸借契約を交わすなどして「常時借りる」ことである。

ある教会では教会堂と牧師館をそれぞれ借りていたが、事情により教会堂の契約が終了となった。教会では礼拝の人数も少なく牧師館のスペースでも十分礼拝できるので、牧師館が教会堂を兼ねることにしたいと考えた。そのようにしても問題ないだろうかと教会から相談があった。

このような時にまず何をすべきか、それは牧師館の賃貸借契約書を見直し、そこに賃貸借物件の「使用目的」が明記されているかどうかを確認してほしい。契約書の使用目的が「居住用」となっていれば、原則として居住以外の用途で使用することはできず、無断で居住以外の用途に使用すれば契約違反となる。明確な契約違反の場合、問答無用で契約解除となり、速やかに退去・明け渡しを迫られる可能性がある。少人数だし黙っていれば分からないなどと高をくくっていると、後々にしっぺ返しを食うことになるので気を付けたい。

今回の事例では契約書に使用目的が明記されておらず、念のため所有者にも確認・相談し、教会堂としての使用について了解を得られたため特に問題とはならなかった。もちろん、近隣住民への配慮も忘れてはならない。

教会開拓の際などに、牧師館を借りて教会堂を兼ねて用いる場合は注意が必要である。無用なトラブルを避けるためには、物件を探す段階で使用目的を明確にしておき、契約書にも明記することが必要だろう。

もう一つの事例を見てみよう。ある教会が教会堂としてビルの一室を借りるため、仲介業者と交渉していた。物件の内見も済み、教会活動のために使用することについて所有者の了解も得て、いよいよ契約に進もうという段階にあった。その時、契約予定のビルの一室を借りている団体の代表から教会に直接連絡があり「入居しないでほしい」とお願いされ、教会では困っているという。

理由を聞くと、その団体は福祉的な活動をしており、宗教団体が入居すると、利用者が勧誘されるのではないかと不安になって来にくくなるからとのこと。キリスト教は愛の宗教なのだから、私たちのために愛をもって引いて欲しいとも言われたという。教会としては一刻も早く礼拝の場を備えなければならないという切迫した事情がある。

所有者でもない人に教会がそのようなことを言われる筋合いもなく、所有者にとってみれば契約を逃して利益を逸することにもなるので、教会と所有者に対して非常識で失礼な話ではないか、また、教会も教会の事情があるのだから、その代表者に教会の活動について丁寧に説明したうえで入居すればよいのではないか、など考えることができるだろう。

しかし一方で、言われるまでもなく私たち教会は隣人を愛する者として、その愛を実践していくものである。不安に思う者がいれば、身を引くということもあるだろう。また、入居してもトラブルになる可能性が十分あるので、あえて無理に入ることはないとも言える。

この事例では教会が愛をもってその願いを聞き入れるとともに、トラブルを避けるためにもその物件をあきらめた(後によりふさわしい物件を与えられた)。この時の判断が果たして最善であったのか、状況や教会によって判断は分かれるだろう。代表者に対して証しとなったのか、福音を伝える機会を逸したのではないかとも考える。この種の対応に100%の正解はないが、教会が主体的に責任をもって祈りをもって決断することが大切である。

2023年12月03日号   03面掲載記事)