【レビュー】『石は叫ぶ 靖国反対から 始まった平和運動50年』評・吉田隆
過ち繰り返さないため聴きたい「叫び」
『石は叫ぶ 靖国反対から始まった平和運動50年』
キリスト者遺族の会編、
刀水書房、2,750円税込、A5判
本書は、80年前の戦争で家族を失った「キリスト者遺族の会」50年の記録である。
天皇のための戦争で死んだ戦死者を、遺族の承認を得ることもなく一方的に「英霊」として祀(まつ)って美化する靖国神社。それを、1969年に日本政府が国を挙げて(国民の税金で!)護持しようとした法案に、キリスト者遺族たちが否を唱えた。そうでなくとも消え去ることのない悲しみを抱いて生きる遺族たちの、心(信仰)さえも踏みにじろうとする暴挙だったからである。
本書には、50年の歩みを締めくくる発起人・吉馴明子氏の講演をはじめ、遺族会の宣言や声明などの資料、そして会報に掲載された遺族の方々の声が集められている。一貫して「信教の自由」と平和への願いを求める遺族の方々は、戦死した自らの家族を決して「英霊」などとは考えない。ただの弱い人間であった者たちが、戦争という狂気の世界に駆り立てられたのだと。
他方で、しかし、戦地で犠牲となった自分たちの家族はアジアの人々の命を奪った「加害者」でもあったとの認識をも共有する。ここに「キリスト者」遺族会が存在してきた、もう一つの重要な意味がある。
『石は叫ぶ』とのタイトルは、旧約聖書ハバクク書(2・11)の言葉である。多くの略奪と犠牲の上に築かれたバビロンの立派な家々
の石垣や梁(はり)自身が、その不正を糾弾して叫ぶと言う。そのようにしてキリスト者遺族の方々は、無念の死を遂げた戦死者に代わ って叫び続けてきたのだ。
その遺族会も、会員の高齢化に伴い、2021年でその歴史を終えた。そのこと自体が、一つの時代の終わりを告げる出来事かもしれない。しかし、戦後80年を迎えようとする今、再び新たな戦争を予感せずにはおれない出来事が私たちの日常を囲むようになった。
私たちの国と教会がかつて犯した過ちを二度と繰り返さないためにも、本書を通してその「叫び」にしっかりと耳を傾けねばなるまい。
(評・吉田 隆=神戸改革派神学校校長)
(2023年12月24・31日号 10面掲載記事)