静岡県東伊豆町
この教会があるから礼拝できる

静岡県賀茂郡東伊豆町。伊豆半島の中ほど、東側の海に面する人口約1万人の町に建つキリスト聖協団(聖協団)伊豆教会は、この町唯一のキリスト教会である。1970年に創立され、50年以上の歴史を持ちながらしばらく礼拝の途絶えていた教会で、昨年5月、日曜礼拝が再開された。いかにして礼拝は再開されたのか、いや、この教会で何が行なわれているのか。イースターを翌週に控えた3月24日、歩けば温泉の湯けむりが方々に上がる、天城山南東の麓に開けた町を訪ねた。

礼拝出席者は全員他教会から

午後2時に始まった礼拝の出席者は、記者を含めて7人。この日はフルートによる賛美の奉仕があったが、説教を中心に、前奏に始まり、祝祷後の後奏まで、極めてオーソドックスな礼拝が行われていた。唯一特異と思われるのは、礼拝出席者の中にここ伊豆教会の教会員が一人もいないことである。記者を除いて、二人は求道者、説教者とフルート奏者は日本同盟基督教団、一人はカトリック教会、一人はインマヌエル綜合伝道団、この日は欠席だったが普段集っている夫妻は日本基督教団。いずれの教団の教会も東伊豆町にはない。ルーツも違い、神学的立場も異なる信仰を持つ教会の人々が、この聖協団伊豆教会で、日曜日の午後、月に2回の礼拝を守っている。

一人の年配の女性に話を聞くことができた。彼女は1998年に、今は亡くなった夫と共に東伊豆町に移住してきた。「ここに教会があることは、建物に十字架が付いていたので、すぐにわかりました。それでも初めての教会ですから、どんな教会かなと思って入りましたが、その当時礼拝に集っていたのは5、6人だったでしょうか。そこに私たち夫婦が参加する形になりました。牧師夫妻の二人のお子さん以外は、私たちも含めて、皆年配の人たちでした」

その牧師が2013年に退職のため遠隔地に引っ越すことになった。「当時先生は70歳。信徒の数もさらに少なくなっていました。急な話でしたが、ご高齢でもあり、引退を考えられたのでしょう。それでもこの教会のことは気にかけてくださっていましたから、『月に一度くらいは礼拝に来るので』と言ってくださいました。先生が引っ越される少し前に、この町に移って来られたご夫妻が教会に集うようになり、その後は私たちで日曜日に集まり、聖書を読み、お祈りしているようなことがしばらく続きました。時々は先生も来てくださいましたし、そのご夫妻が教会を守ってくださっていました」
数年後、実質的に牧師が不在となるにともない、しだいに礼拝も行われなくなった。「時々、教会にはご夫妻と集まってはいましたが、私も他の教会を訪ねることもありました。その中の一つが、伊東市にあった川奈聖書教会です。ここからは車で40分、電車でなら1時間くらいでしょうか。何回も行った記憶はありません。せいぜい年に1度くらいだったでしょう。でも行くたびに牧師先生と少し話し、いつだったかははっきりしませんが、伊豆教会の話をしました。確かに『牧師が与えられるように祈ってください』と言ったのは覚えていますが、神様がこのように答えてくださるとは」

「牧師がいない」…祈るだけは違う

その川奈聖書教会(日本同盟基督教団)の牧師が、この日ここ聖協団伊豆教会の礼拝で説教をした、山口光仕氏である。「姉妹が川奈の教会に最初に来たのはコロナが始まった頃だったでしょうか。それでも全部で3回ほどだと思います。22年の3月でしたが、礼拝が終わった後に話している中で伊豆教会のことを聞き、『牧師がいないので、時々2、3人で集まってお祈りをしている。牧師が与えられるように祈ってくれ』と言われました。その時、ただ『祈ります』とだけ言うのは違うと思ったのです。それは、祈るのであれば自分も何かをしなくては、と思いました。自分が行かなければこの教会は数年でなくなるのでは、とも。そして、その場で祈るとともに、『何かお手伝いできることがあれば、私が』と言いました」
しかし、伊豆教会は聖協団の教会。他教団の教会で勝手に礼拝するわけにはいかない。まず自分の教団内で理解を得た上で、聖協団の理事長である菅谷勝浩氏(清瀬グレースチャペル牧師)に連絡をとった。菅谷氏は次のようにその時のことを振り返る。「山口先生から事の経緯を聞き、『差し支えなければ信徒のところに訪問させてもらえないか』と言われました。山口先生は本当に謙遜な方でした。その申し出を教団の理事会でも話しましたが、みな前向きに受け止め、教団を超えた教会協力ということでもあり、これからのモデルケースになりうるのではないかと、希望のようなものも感じました。何度かのやり取りを経て、最終的に山口先生には、伊豆教会で礼拝を持つことも含め、『本当はこちらでしなければならないことですのに、申し訳ありません。よろしくお願いします』とご返事しました」

この日の礼拝には記者を含めて7人が集った

教会が必要な場所はどこか

当時聖協団では、伊豆教会の今後について、閉鎖の方向性をすでに持っていたと菅谷氏は言う。「牧師が退職した後、教団として新たに牧師を派遣するということは、現実問題としてできませんでした。何もできないうちに、自然消滅に近いような形になっていたのは事実です。前任牧師が引退する時点で、牧師家族以外に正式な教会員はおらず、数名の客員が残っている教会でしたが、教会墓地があり、借地ではあっても教会堂を所有していました。墓地には当然信徒の遺骨が入っています。川奈聖書教会からのお話があった時点で、墓地に関しては、遺骨は他の教会の墓地に移し、墓じまいは済ませていました。その費用は当然教団で負担しました。会堂に関しては、借地代と光熱費を教団が負担し続けていましたが、いずれ解体して、土地を更地にして返す考えでした。でも、それをするにも数百万の費用はかかりますから、それをどうやって工面するかという問題は依然としてありましたが」

しかし、伊豆教会で礼拝を再開するということは、言わば聖協団として持っていた教会閉鎖の方針を変えることになる。その点に関して菅谷氏は「山口先生からは、伊豆半島全体の宣教状況、教会の現状、さらに、その中で東伊豆町に伊豆教会があることの重要性を聞きました。そして『そのためなら自分は協力を惜しまない』と言っていただきました。そこが私には響きました」と語る。一方山口氏は礼拝再開を申し出たことに関して次のように話す。「伊豆教会は、東伊豆町、また伊豆半島の状況を考えて、重要な価値のある教会だと確信していますし、菅谷先生にもそのようにお伝えしてきましたが、教会はあくまでも聖協団の教会です。残す、残さない、の判断も聖協団がなさることです。仮に私が行って礼拝を始めたとしても、聖協団として、その教会を、その礼拝を『残そう』と主体的に判断していただけないのなら、そこでの礼拝が続いていくとは思えませんでした。もちろん私も犠牲を覚悟しての申し出でしたが、菅谷先生も地方伝道の灯火を残そうとの思いで、教団として受け止めてくださったのだと思います」

それでは、伊豆教会の「重要性」とはどういうことか。「東伊豆町に唯一の教会ということが、私が応援に行こうと思った大きな動機の一つ」と山口氏は語る。「そこがなくなったら教会に行けないという人がいる地域に、教会を残していくことが必要ではないでしょうか。広い伊豆半島全体で20ほどの教会がありますが、伊東市には、川奈聖書教会も含め、七つの教会があり、数が集中しているというか、偏っています。伊東に必要な教会の数を教団間で調整して、現在伊東に注がれている人材や財を半島の他の地域に回していくことができないでしょうか。これは、もちろん一つの教団内でできることではありません。福音派もしくはキリスト教会全体で考えるべきことでしょう。教会が必要な場所はどこか、という発想が必要だと思います」
二つの教会に牧師として立つ山口氏だが、それぞれの教会は基本的に、教会の活動としては、独自にやっていくべきと考えている。「歴史も違い、地域性も異なります。信徒自身がその違いを感じています。無理に交流するようなことは考えていませんし、むしろはっきり分けていくべきだと思っています。川奈教会は、同盟教団の中規模の教会として、教会形成をしてきましたし、信徒もその意味では一様です。伊豆教会は多様で、カトリックの方も来ています。ですから私も教派色を出さないようにしています。それでも礼拝に来ているみなさんは、教会のメンバーのつもりで奉仕をしてくださっています。感謝なことです」

教派を超えて共に礼拝する

現在伊豆教会では、40年以上が経ち、傷みが出ている会堂の修繕を計画している。礼拝献金と修繕のために与えられた献金でそれが可能になった。借地代は今も聖協団が負担しているが、以前教団が負担していた光熱費は、教会の献金でまかなえるようになった。山口氏への謝儀は、いわば川奈聖書教会が「負担」している。牧師が他教会に応援に行くことを教会は後押ししている。
「聖協団は伊豆教会を川奈教会に委ねてくださいましたが、経済的な負担は依然負って下さっています。人的な負担は、私が礼拝に行くことで、川奈教会が負っています。聖協団だけでも、川奈教会だけでも、伊豆教会を支えていくことはできません。みんなが責任を分かち合う中で、町に一つの教会が残っていく。その所属ははっきり整理されていないかもしれませんが、教団、教派も違う、多様な人たちが、同じ三位一体の神様を共に礼拝するために集まっている。地方の、その町にたった一つしかない教会とは、そういうものなのではないでしょうか。むしろとても良い形なのではないかと思っています」

キリスト聖協団伊豆教会

「教会協力」=「責任を分かち合う」

教会での取材が終わって、帰りがけの立ち話のような時だった、、、、、、

2024年04月21日号 04・05面掲載記事)

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