イランで5月19日、エブラヒム・ライシ大統領(63)がヘリコプター墜落事故で死亡したニュースは世界に衝撃を与えた。同政権下で厳しい迫害を受けてきたイランのキリスト者たちは、この出来事をどう受け止めたのか。本紙提携の米福音派誌クリスチャニティトゥデイは5月23日、「ライシ大統領の死にディアスポラのイラン人キリスト者は、ほとんど涙を流さなかった」と伝えた。


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指導者らが正義の神に出会うように

イランではホメイニ氏を指導者とする1979年のイスラム革命以来、キリスト信者が迫害されてきた。特にイスラムからの改宗者が多い福音派は激しい迫害に遭い、90年代には長老教会やアッセンブリーズ・オブ・ゴッドの指導者らが処刑や暗殺される事件が相次いだ。多くのキリスト教指導者らが国外に逃れ、海外に住むディアスポラとして国内の教会を支えている。

大統領の死去に、「数え切れないキリスト者が、イランにおける神の御心のために特別に祈っている。私は、神の御手がこれらのすべての重要な出来事の上にあると信じています」とイランの教会ネットワークを監督するトランスフォーム・イランのCEOラナ・シルク氏が語ったと、同誌は報じた。彼女は西側の教会に、神を畏れる新しい指導者のために祈るよう求めた。

国際的信教の自由促進機関エンパワー女性メディアの代表シリン・タバー氏は、「私の知る限り教養があり社会に関わっているイラン人の反応は喜びです。変化の可能性があれば希望は常にある」と語った。イラン系米国人キリスト者の彼女は、「今回の死は、政権が無敵ではないだけでなく衰退しつつあることを示している」という。
タバー氏はイスラム諸国とイスラエルの関係を正常化するアブラハム合意を強化するためのアブラハム女性同盟を率いている。イランのこの過渡期において、彼女は西側諸国に対し、民主化の推進に「寄り添い」続けるよう促した。

イラン革命以来最低の投票率で2021年に選出されたライシ氏に対し幻滅が広がったと、アナリストたちは見る。国営メディアが葬儀やイランの街頭での追悼の様子を放送する一方で、ディアスポラの映像では街頭でのダンスが映し出された。

キリスト者の中にはもっと穏やかな声もある。
トーチ・ミニストリーズのCEOアミール・バズムジュー氏は、「私の最初の反応は、正義がなされたということだ」と語った。「神はライシのせいで愛する人を不当に失った家族の声を聞かれた」。何千人もの囚人を処刑した「死の委員会」での彼の役割から、バズムジュー氏は大統領を〝テヘランの虐殺者〟と悪名高い名称で呼びながら、エゼキエル書18章23節を引用した。「わたしは悪しき者の死を喜ぶだろうか。…彼がその生き方から立ち返って生きることを喜ばないだろうか」。そして、「イランの政治指導者たちが、その暗黒の道から立ち返り、愛と正義と聖である神と出会うことを祈ります。さもなければ、神の正義はキリスト者を含む声なき人々のために来るでしょう」と、述べた。 最近の調査によると、イラン国内には100万人近いキリスト者がいるという。

イランの信教の自由を擁護する団体Article18のディレクターであるマンスール・ボルジ氏は、キリスト者は神の慈悲と裁きの関係を十分に理解していないかもしれないが、同胞に危害を加える者たちに怒りを表すことは許されている、と語る。「彼が裁判を受け、罪の責任を問われる方がよかった。しかし、彼のいない世界はより安全な場所だ」

だがシルク氏は、国内の権力闘争で当局がさらに厳しく支配することになり、市民にとっては良い結果をもたらさないだろうと見ている。キリスト者に対する迫害は続き、おそらく激化するだろうと警告した。

2024年06月16日号 01面掲載記事)