東京・目白にある草苑保育専門学校は、今年4月で創立70周年を迎えた。2年間・週5日で「幼稚園教諭二種」と「保育士」の資格を取得できるコースに、約250人が在籍している。職業訓練生も受け入れ、その中には60代の受講生もいる。2025年4月からは、2年間・週4日の、保育士資格に専念できるコースを新たに開講し、ニーズに応える。両コースとも、希望すれば「ピアヘルパー」と「児童厚生2級指導員」も追加で取得できる。

校長の阿江美知代さんに話を聞くと、単なる専門職養成機関ではない、社会全体に目が開かれた、全人教育的な理念が浮かび上がった。

阿江さん

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スクールモットーとして、「信仰・希望・愛」に「祈り」を加えた四つを掲げる。これは現理事長によるもの。クリスチャンでないながらも「祈ることが大切だ」との信念があったそうだ。

礼拝は月曜から金曜まで毎日行う。学校と交流のある牧師たちや、時には阿江さんはじめクリスチャンの教員が語る。「授業の延長に思える学生もいるかもしれないが、積み重ねていけばいずれ変わってくる。種は蒔(ま)かれている」と励ましあっている。礼拝の内容も工夫を始めた。伝統的な賛美歌を歌ってきたが、ワーシップソングも取り入れてみたところ、学生たちも楽しく歌っているのだそう。

常勤・非常勤あわせて約70人の教員のうち、クリスチャンは阿江さん含め6人ほど。学校生活や授業内容において、明確に聖書を語るわけではないが、教員らには理解があり、丁寧に向き合っているという。


クリスマス礼拝で。学生が聖書にふれる機会は多い。

子どもは世の中を映す

教会附属幼稚園での実務経験などから阿江さんが強調するのは、保育と世の中は一連の関係上にある、ということだ。シングルマザーの増加、外国籍の子どもの増加、家族観の変容、経済格差……そういった社会の課題は、子どもに、そして保育現場に、ただちに影響が表れる。そしてそれは既に、草苑の学生世代にも及んでいるという。

学生の、子どもとの関わり方やコミュニケーション体験には大きな差がある。そんな学生たちを、子どもや子どもの親と接する者に育ててゆく必要がある。保育の現場では、施設と親の間を取りもつ場面も少なくない。実習の授業では、他の先生といかに連携するか、子どもとどう接するか、そういったコミュニケーション理論も学ぶ。

阿江さんは保育者像について、「保育のことは知っていても、世の中のことを知らないとか、そういうところを変えていきたい」と語る。子どもが生きる情況は、世の中の事情に大きく左右される。その現実の中で草苑の学生は、社会への関心、自分の世界を広げる意欲、世の中に必要とされる経験、誰かのために働く経験などを得ていく。阿江さんは「保育士はもっと堂々としていい」とも語る。「卒業・就職後に、保育者としてどう生きていくか、というよりは、その学生個人がどうやって生きていくか。それを大事にしている」


草苑幼稚園の園児と一緒にお店屋さんごっこ。保育技術演習と造形表現の授業が共同で準備した

草苑は地域との連携も積極的に行う。これも他者貢献の体験のためだ。学校至近にある目白庭園で、学生の作品を展示するなどの催しを開いてきた。子どもに限らず、地域コミュニティーや高齢者まで、視野を拡げる狙いがある。

2021年には青山学院大学と教育提携を結んだ、、、、、、

【間島献一】

礼拝を毎日行う講堂。スクールモットーの「信仰・希望・愛 祈り」が掲げられている。

2024年06月16日号 05面掲載記事)