ケイト(左)を車いすに乗せてどこへでも買い物に引っ張り出すベック (c)2014 Daryl Prince Productions, Ltd. All Rights Reserved.
ケイト(左)を車いすに乗せてどこへでも買い物に引っ張り出すベック (c)2014 Daryl Prince Productions, Ltd. All Rights Reserved.

筋肉の萎縮とともに運動神経が急速に衰え、やがて呼吸困難に陥るALS(Amyotrophic Lateral Sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)。思考も意識もしっかりしているのに、身体全身が動かなくなる難病によって“あなたはもうあなたではない”(原題:You’re Not You)ことを実感させられながら死を迎える。その恐怖の中にあるセレブな女性と介護技能は最低だがどこか心の思いを受け止めてくれる貧しい女子大生との出会いによって、死の恐怖や生きる意味を分かち合うヒューマンドラマ。アカデミー賞主演女優賞を2度獲得しているヒラリー・スワンクが、10年ぶりに主演。ALS患者の身体的な衰えとともに死を迎えるまでは生き抜こうとする意志を、抑えた演技でしっかり伝えている。

資産家の家に育ったピアニストのケイト(ヒラリー・スワンク)。弁護士の夫エヴァン(ジョシュ・デュアメル)と幸せに暮らし、誕生日には友人たちを招きショパンの「英雄」(ポロネーズ第6番 変イ長調)を演奏して愉しませる。だが、その演奏中に右指が急に麻痺状態になった。

1年半後。難病ALSと診断されたケイトの症状は重く、歩行器と車いすが必要で着替えも一人ではできない。エヴァンは、介護ヘルパーがくる前にケイトの身の回りを世話してからオフィスに向かう。だが、ケイトはプロの介護士たちを次々と解雇してしまう。献身的に援助してくれるエヴァンとは異なり、「みんな私を病人扱いする」と不満を漏らすケイト。

妻ケイトへの献身的なサポートに偽りはなかったエヴァンだが… (c)2014 Daryl Prince Productions, Ltd. All Rights Reserved.
妻ケイトへの献身的なサポートに偽りはなかったのエヴァンだが… (c)2014 Daryl Prince Productions, Ltd. All Rights Reserved.

ある日、ベック(エミー・ロッサム)と名乗る女の子が応募してきた。シンガーソングライターを目指しているが、ライブハウスでステージに立つと極度の緊張感で歌えなくなってしまう。そんな自分に落ち込み、誘われるままお酒を飲むとそのまま男とベッドイン。大学では教授と不倫している奔放な女子大生。介護経験は、ゼロに等しい。エヴァンは、そんなベックを玄関先でのあいさつで見抜き、面接の必要も感じなかったが、ケイトはなぜかベックを雇う。ケイトに対してため口で話し、病状についても不躾な問いかけをはばからないベック。案の定、失敗ばかりで最低な介護レベル。エヴァンは、再三再四ベックを解雇するよう勧めるが、ケイトは「彼女は私の話を聞いてくれる」と言って引かない。

そんな時、ケイトはエヴァンに不倫関係にある女性がいることを知る。だが、「彼にも自分の人生を歩む権利がある」と言って介護支援センターに転居しようとするケイトに、ベックは俄然奮起する…。

ハイソサエティな生活を送るケイトが、普通なら出会うことのない女子大生のヘルパーと心を通わすという物語は、どこかフランス映画「最強のふたり」(2011年)を思い起こさせられる。だが、余命宣告を受けているケイトとのコミュニケーションは、より濃密で緊迫感のあるストーリー展開だ。自分の人生の最期を見据えて、誰と最期の灯の輝きを生き抜きたいのか。ケイトのインテリジャンスある選択は、ファンキーなベックの成長ともからまって大いに泣かせられる。 【遠山清一】

監督:ジョージ・C・ウルフ 2014年/アメリカ/102分/映倫:PG12/原題:You’re Not You 配給:キノフィルムズ 2015年11月7日(土)より新宿ピカデリー、ヒューマントラスト有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー。
公式サイト http://sayonarano-kawarini.com
Facebook https://www.facebook.com/sayonaranokawari

*AWARD*
2015年第28回東京国際映画祭特別招待作品。