左からあかり、芙美、純、桜子の親友4人 (C)2015 神戸ワークショップシネマプロジェクト
左からあかり、芙美、純、桜子の親友4人 (C)2015 神戸ワークショップシネマプロジェクト

プロの演技経験を持たない4人の女性(川村りら、田中幸恵、菊池葉月、三原麻衣子)が、スイスのロカルノ国際映画祭で4人同時に最優秀主演女優賞を受賞し、今春話題になった作品がいよいよ公開される。1946年から開催されているロカルノ国際映画祭は、カンヌ、ヴェネチア、ベルリンの世界三大映画祭に次ぐFIAPF (国際映画製作者連盟) 公認の映画祭で、これまでに「地獄門」(1954年、衣笠貞之助監督)、「野火」(61年、市川崑監督)、「無常」(70年、実相寺昭雄監督)、「愛の予感」(2007年、小林政広監督)など実力派監督作品が金豹賞を受賞している。物語は、アラフォー(around 40)を迎えた親友4人の女友達が、それぞれ内に秘めている問題や心の揺らぎが顕わになり岐路に立っている状況が浮かび上がってくる。だが、一時の葛藤や混乱を来しても、互いに情を育んでいくヒューマンドラマ。プロの役者の計算しつくされた演技の味わいとは異なり、役柄に同化しているようなリアルさに引き込まれていく。

幼なじみの桜子(菊池葉月)と純(川村りら)に大学時代に知り合ったあかり(田中幸恵)と芙美(三原麻衣子)ら4人の親友たち。純のとりもちで桜子はクラスメイトだった良彦と結婚し中学生になる一人息子がいる。だが、最近同居を始めた姑との付き合い方に気を遣う。純は、生命物理学者の夫・公平との間に子どもがいないこともあって幼なじみの桜子の家に気軽に泊まれる仲だ。アートセンターで企画の仕事をしている芙美は、編集者の夫・拓也とつつがなく暮らしているが、最近夫の様子に何か不安なものを感じつつある。看護師あかりはバツイチの独身、病院で知り合った男性からアプローチを受けているが離婚した心の傷はまだ癒えてはいない。

ある日、芙美が企画に携わったワークショップにあかり、純、桜子たちが参加した。姉御肌な性分のあかりは、打ち上げでワークショップ講師の鵜飼に少し絡まれる。ワークショップ後、桜子をお茶に誘っていた風間が、自分はいま離婚調停中だと場違いな身の上話を始めた。ところが、純も離婚朝廷裁判中だと語り始めた。しかも桜子には話していたがあかりと芙美には寝耳に水の出来事。あかりは「私たちは親友じゃなかったのか」と、純を責める。

(C)2015 神戸ワークショップシネマプロジェクト
(C)2015 神戸ワークショップシネマプロジェクト

純の心の苦しみを思いやりながらも、微妙な心情の違いが顕わになっていく4人。純を責めていたあかりだが、自身も心の揺らぎのなかで思わぬ大けがをしてプライドを失い落ち込む。芙美は、拓也が担当する若手女流作家こずえと接するときの表情の違いと読み取り、不審を募らせる。桜子は、中学生の息子がクラスメイトの女の子を妊娠させ戸惑うが、仕事の忙しさにかまけて関わろうとしない良彦との間に隙間風が吹き抜けていく。離婚調停裁判に負けた純は、寄り添おうとする公平の言葉を信頼できず、東北のシェルターへ逃れていく…。

5時間17分の長編。途中で1回休憩は入るが、ストーリーの展開に章立てはなく、それぞれの日常と出会いを、ごく自然に描いていく。長く続いているセックスレスな関係、自分の心に向き合ってくれていないことへの許せない思い、離婚の痛みから抜け出せない苛立ち、受けて来た言葉の暴力と冷ややかなまなざしに決別する決断…。観る者はその時間の流れに生々しく引き込まれてしまう。4人がそれぞれの生活の中で、愛という光を見失っている孤独感を味わっている。だが、打ちひしがれてはいない。そのしなやかなたくましさは、むしろ彼女たちが寄り添ってくれているような温もりと5時間付き合えた達成感を味合わせてくれる。 【遠山清一】

監督:濱口竜介 2015年/日本/317分/英題:Happy Hour 配給:神戸ワークショップシネマプロジェクト 2015年12月5日(土)より神戸・元町映画館にて先行上中、12月12日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。
公式サイト http://hh.fictive.jp/ja/
Facebook https://www.facebook.com/Film.HappyHour

*AWARD*
2015年第68回ロカルノ国際映画祭インターナショナル・コンペティション部門最優秀女優賞(田中幸恵・菊池葉月・三原麻衣子・川村りら)・脚本スペシャルメディション受賞作品。第37回ナント三大陸映画祭コンペティション部門銀の気球賞・観客賞受賞作品。BFIロンドン映画祭正式招待作品。サンディエゴ・アジアン映画祭出品作品。第26回シンガポール国際映画祭アジア長編映画コンペティション部門出品作品。