(c)東海テレビ放送
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暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(暴力団対策法)が1992年(平成4)に施行されてから20年余。都道府県公安委員会によって「指定暴力団」とされたヤクザ組織の事務所の設置や縄張り内の営業者に対する“用心棒代”の請求や高利金融の禁止など様々な規制が団体組織、組織加入者(組員)らに掛けられている。正業ではない法律に違反するような裏家業の世界。なかなかその日常を垣間見ることも難しいが、半年間も組事務所を取材したドキュメンタリー。2012年、新たに「特定危険指定暴力団」「特定抗争指定暴力団」の指定と対策を盛り込んだ法改定がなされた。より厳しい取り締まりと一般社会の危険視に煽られるつつあるなかで、ヤクザとその家族への基本的人権の配慮の希薄さが現実的な問題としてさらけ出されていく。

“暴力団”に指定されている組織なだけに、金銭などの資金供与とみなされる行為は問題になる。東海テレビの取材クルー、取材に際して「①取材謝礼金を払わない、②収録テープを事前に見せない、③映像にモザイクは原則かけない」などの条件を提示した。取材される側には、おおよそ何のメリットもなさそうな条件を受け入れて、大阪府堺市に事務所を構える指定暴力団「二代目東組二代目清勇会」(川口和弘組長)が取材に応じた。東組は、かつて山口組などと銃撃戦も辞さない抗争を展開した独立系組織。二代目東組の二次組織、二代目清友会の川口組長は二代目東組の副組長でもある。

取材クルーを事務所内に案内する「部屋住み」の若い衆。彼ら数人が暮らす3階の大部屋は、きれいに整頓されている。本棚には動物やペット本なども目に付く。目上の者たちのしつけは厳しく、何が起こるかわからない緊張感のある日々の中で動物たちの本に癒されるという。大部屋に飾られた「任侠道」の金看板。片隅に置かれた横長のボストンバックを「中はマシンガンですか」と質問する取材クルーに、「マシンガンとか拳銃とか、あるわけないじゃないですか。そんなん思い過ごしです」と苦笑いして応答する。

堂々と取材に応じる川口組長 (c)東海テレビ放送
堂々と取材に応じる川口組長 (c)東海テレビ放送

通天閣がある新世界の繁華街で居酒屋を営む女将は、川口組長に「昔から惚れてますねん」と屈託ない。「この人たち怖がっていたら、この新世界では生きていけまへん。…この人たちは護ってくれます。警察なんて誰も護ってくれへん」と言い切る。

だが、ヤクザの日々の暮らしは、さまざまな締め付けに押しつぶされている。銀行の口座を開くことも保険に入ることもできない。宅配便やデリバリーの配達もしてくれない。銀行口座を持てないため学校の授業料を現金納入していたためヤクザの子どもと周囲に知られた。ヤクザとその家族を追い込んでいく生の声が、川口組長の下にもよせられる。ここまでくると、「自分らには人権ないんとちゃうか」との言葉に、答えがつまる。

誰もが法の下での弁護人を立てることが認められているはずだが、山口組の元顧問弁護士が微罪で懲役判決を受け弁護士資格を剥奪された経緯も本作では追っている。戦後、警察によって規程されてきた「ヤクザ=暴力団」という概念に、社会一般が煽られている面はないだろうか。暴力団に指定されていない暴走族グループやいわゆるチンピラグループは、ここまで予防的な法規制に縛られてはいない。その違いはどこにあるのだろうか。賭博や非合法な収入源を持つヤクザを守る考えはないが、基本的人権という視点からその日常への法的規制と家族への影響を見て見ぬふりをできる社会は、どこか不健全なようにも思えてくるドキュメンタリーだ。 【遠山清一】

監督:土方宏史 2015年/日本/96分/ドキュメンタリー/サイズ16:9/ 配給:東風 2016年1月2日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次ロードショー。
公式サイト http://893-kenpou.com
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