役者人生50年、石倉三郎初の主演映画は、その芸風を存分に生かしている。 (C)2016「つむぐもの」製作委員会
役者人生50年の石倉三郎。その芸風が存分に生かされて初の主演映画 (C)2016「つむぐもの」製作委員会

頑固な越前和紙職人とワーキング・ホリデー制度で福井にやって来た韓国女性とが、介護をとして文化の違いを超え心を機微を紡いでいく物語。プランニングされた仕事をこなすことに追われる介護の現場で、無口な職人気質の男は自分のしたいことも言わずただ苛立つ日々。大学を卒業したばかりだが、自分のしたいことも見つからず無気力な韓国女性には、職人の心の苛立ちが響くように受け止められたのだろうか。身体の自由がきかなくなっていくお年寄りに対して、“したいことに寄り添う介護”の難しさを見つめながらも、介護への希望を感じさせてくれる作品だ。

【あらすじ】
越前和紙の故郷、福井。和紙職員の剛生(たけお:石倉三郎)は、紙漉きが出来た妻を亡くして以来独り暮らし。職人気質と頑固の言動は相も変わらない。ある日、食事中にかかってきた電話を取ろうとしたとき、剛生をの脳梗塞で倒れた。息子の巧也(結城貴史)は、左半身が不自由になった剛生を介護施設に入居させようとするが、和紙工房のある自宅での独り暮らしを続けると言い張る。

韓国の百済暦地区が多くある扶余郡。市場の小さな店の娘ヨナ(キム・コッピ)は大学大を卒業し歴史博物館に就職したものの、あまりに怠惰な職務態度なためクビになった。家でごろごろしているヨナに、母親はワーキング・ホリデイ制度で日本へ行くよう勧める。越前和紙づくりの見習い気分で福井に来たヨナだが、連れて行かれたのは和紙工房から離れないと言い張る剛生の家。しかも仕事は、まったく経験がない剛生の介護を住み込みでと言われ、「聞いてない!」と憤慨するヨナ。ヨナの態度を見た剛生は、韓国人嫌いモードあらわに「帰れ!」と言い放ち、初対面から険悪な二人。

だが、代わりの仕事のないヨナは、仕方なく剛生の介護と賄いを始める。剛生に何を言われても、笑顔で「分かりました。クソじじい」とハングルで返事しながら。不自由な身体になっても工房に立とうとする剛生を見ながら、ヨナは越前和紙の作り方に興味を持つ。ヨナは、和紙組合の協力を取り付けて剛生の工房でツアー観光客を対象に紙漉の実演を企画し好評を得た。その夜は、マッコリと日本酒を酌み交わしながら、二人の気持ちがようやく通じ合った。

(C)2016「つむぐもの」製作委員会
(C)2016「つむぐもの」製作委員会

介護経験がないヨナを指導する介護施設では、介護の常識を逸脱したヨナの行動が問題になり、現場の介護福祉士たちをイラつかせていく。入居者のなかには、食事の時間になり、順番が回って来ると食事や散歩などプログラムされた行動を嫌がることもある。だが、ヨナは入居者と楽しく遊ぶ感覚で接し行動する。剛生を担当している新人介護福祉士の涼香(吉岡里帆)は、そんなヨナを好きになれず剛生に何か起こらないかと心配する。ヨナが、剛生を東尋坊へのドライブに連れ出したとき、涼香の心配していた出来事が起きた…。

【見どころ。エピソード】
介護施設での介護現場の様子が、介護知識をもたないヨナの剛生との接し方と対照的に描かれている。何人もの入居者、利用者の介護と支援をサービスとして提供していく現実的なプログラムと対応。それは、ヨナのように対面している人の気持ちの寄り添い、そのことを楽しむことだけでは進まない。福祉に携わる思いはヨナと同じように人の心に接することであっても、健康と衛生にかかわる“しなければならない”事柄は多い。福祉制度の現状の厳しさのなかで、福祉の将来に希望を見失うまいとする涼香とヨナの対話が、ヨナの成長するラストシーンとともに温かく見つめている演出が印象に残る。 【遠山清一】

監督:犬童一利 2016年/日本/109分/ヨーロピンヴィスタ/DCP 配給:マジックアワー 2016年3月19日(土)より有楽町スバル座ほか全国順次公開。
公式サイト http://tsumugumono.com
Facebook https://www.facebook.com/tsumugumono

*AWARD*
第11回大阪アジアン映画祭コンペティション部門出品作品。