映画「バベットの晩餐会」--神は人生での選択を祝福へと導いてくださるお方
禁欲的なプロテスタント・キリスト教を信奉する北欧の寒村を舞台に、人生における信仰と音楽・料理などの芸術とのかかわりを描いたデンマーク映画の名作が、27年ぶりに3度目のリバイバル劇場上映される。長い間絶版状態だったDVDが、2011年紀伊国屋書店レーベルから販売され身近な復活は喜ばしい。だが、北欧の厳しい冬に振舞われるフランス料理が、至福の分かち合いと神の導きと恩恵への思いを物語る本作はやはり劇場の大画面で堪能してほしい名画。
【あらすじ】
19世紀中葉、ユトランド半島の小さな漁村。ルーテル教会の一派を創設した牧師と娘の美しい姉妹マーチーネとフィリパの一家が宣教していた。清貧を重んじる敬虔な説教は村人たちからも信奉されていた。
信徒でもある地域の名士レーヴェンイェルム夫人の甥ローレンスは、スウェーデン軍士官。謹慎処分を受け叔母の館に来ていたが、村でマーチーネと出会い恋をした。だが、牧師家族の禁欲的な生活と敬虔主義的な説教に自分の心が探られ、マーチーネには告白しないまま村を去った。
1年後、パリの大歌手のパパンが保養で村を訪れた。教会から聞こえてきたフィリパの美しい歌声に魅せられたパパンは、フィリパの歌唱指導を申し出る。だが、レッスンで歌劇「ドン・ジョバンニ」のツェルリーナを誘惑する場面の二重唱を歌いながら、パパンの求愛とパリの音楽界への誘惑を感じ取ったフィリパは神に仕える人生を選びレッスンを断ってしまう。
35年後の雨の夜。バベットと名乗る女性が、パパンの紹介状を持って姉妹の家を訪ねてきた。バベットは、パリ・コミューンで家族が処刑され、どうにか逃げ伸びてきた。行くところもなく「給料なしでも」とすがりつくバケットを、姉妹は家政婦として迎い入れる。14年後のある日、パリの友人がバベットのために買った1万フランの宝くじが当たった。バッベトは、牧師の生誕百年記念の晩餐を自分の費用でフランスを作らせてほしいと申し出る…。
【みどころ・エピソード】
ユトランドの寒村では、「口は神をほめ讃えるためにあるもので、贅沢な食事を楽しむためではない。食事は健康が保てれば十分だ」と、質素な生活に勤しんで暮らしていた。だが、バベットは、パリでも有名な高級レストランの料理長を務めていた食の芸術家。姉妹から教えられた魚のすり身とパンそしてビールを加えて煮込んだ料理を、少しでもおいしくと思い玉ねぎと砂糖で味を調え野摘みの草花で香りと彩を添えるバベット。その料理への愛情と人への思いやりが、「貧しい芸術家はいません」というバベットの言葉を裏付けているのでしょう。
姉妹が、牧師であった亡き父の生誕100年記念の愛餐会を思い立ったきっかけは、信徒たちが年を取るとともに心が頑なになり、互いに言い争う日が多いことに悩んでいました。ですが、贅沢な食事は堕落への誘い。バベットは、12人分の料理の準備に1万フランすべてを使います。準備した食材や年代もののワインの価値は、信徒たちには分からずとも目を見張るものがあり、誘惑に負けて堕落してはいけないと、頑なな思いで晩餐会に臨みます。その人たちが、どのように心が和らぎ、打ち解けていくのかはみごとな演出で引き込まれていきます。みんなの幸せを願い、無一文になって料理を作ったバべットは、姉妹に「貧しい芸術家はいません…ただ、最高の仕事がしたいだけなのです」と答える。人生の岐路では、様々な選択をしなければならない。だが、神は最善の道を恩恵として歩ませてくださる。別の道を選択しなかったことも、神は祝福となるように御霊のうめきのような執り成しを聴かれていることを教えてくれる作品だ。 【遠山清一】
監督・脚本:ガブリエル・アクセル 1987年/デンマーク/デンマーク語・スウェーデン語・フランス語/102分/映倫:G/デジタル・リマスター版/原題:Babettes gastebud、英題:Babette’s Feast 配給:コピアポア・フィルム 2016年4月9日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開。
公式サイト http://mermaidfilms.co.jp/babettes/
Facebook https://www.facebook.com/babettesfeastjp/
*Award*
1988年:第60回アカデミー賞外映画語賞受賞。 1989年:英国映画テレビ芸術アカデミー賞(BAFTA)最優秀外国語映画賞受賞ほか多数。