高座に復帰したかん平師匠は座布団に座って話すことにこだわったそうです。だが、古今亭八朝師匠が「車椅子に乗っても面白い話が出来ますよ。それはかんちゃんにしか出来ないんだから、やりなよ」と言われて、目からうろこだったそうです。 (C)2016 NKW製作委員会
高座に復帰したかん平師匠は座布団に座って話すことにこだわった。だが、古今亭八朝師匠が「車椅子に乗っても面白い話が出来ますよ。それはかんちゃんにしか出来ないんだから、やりなよ」と言われて、目からうろこだったそうです。[Facebookより] (C)2016 NKW製作委員会

長年、修行を積み重ねてたどり着いた真打の身分。噺家としてさらに芸が磨かれていく矢先、脳溢血に倒れた林家かん平師匠。病床の母親を介護しながら自らも重度の障がい者に。だが、めげない。高校時代からの友人たちや芸人仲間、知り合いの人たちから応援と支援を受け、リハビリを続けながら高座に上がり続ける人間ドキュメンタリー。頑張り続ける人の姿を見たら放ってはおけない心のつながりに、一日一日を生きることの素晴らしさと希望がわいてくる。

【あらすじ】
真打に昇進して5年。気風のいい語り口に磨きがかかり、噺家として周囲からも嘱望されていた1990年(平成2)41歳の時、林家かん平さんは脳溢血に倒れた。師匠の初代・林家三平の追善興行打ち上げの夜のことで“おかみさん”の香葉子さんも、かん平さんの様子がおかしいのは感じていたという。

症状はかなり重く、右半身付随と噺家にとっては致命的ともいえる言語に障がいが残った。それでも、どうしても噺家を続けたい。翌年9月の追善興行で高座に復帰はしたが、3年におよぶリハビリ入院を繰り返しながら高座に上がり、病床の母親の食事など介護するために同居暮らし。学生時代の仲間が「林家かん平を励ます会」(現在は「林間落語会」と改称)を起ち上げ応援する。

かん平さんの十八番は古典落語。だが、歳を重ねるごとに体力と気力が持たなくなる。かん平さんは、二ツ目時代から芸の相談をし面倒をかけてきた四代目・江戸家猫八師匠(2016年3月21日に癌のため逝去)に相談。猫八師匠の励ましもあって新作落語へのチャレンジを決意する。

90歳を超えて寝たきり状態の母親とは、毎日がボケとツッコミのような言葉のやり取り。介護サービスや自分のリハビリなどで他人様とのかかわりも人間模様のネタになる。さて出来上がりは…。林間落語会の仲間たちは耳も肥えていて講評はなかなか手厳しい。だがめげない。2012年春に見ていた連続テレビ小説で戦争孤児になった広志少年に梅ちゃん先生が、「頑張っていれば、神様は必ずご褒美をくれるよ」と言って励ました一言。かん平さんは、心が折れそうになるとこの言葉を思い出して、また前へ進む。

(C)2016 NKW製作委員会
(C)2016 NKW製作委員会

【みどころ・エピソード】
真打の噺家が、脳溢血で倒れて右半身不随で言語のしゃべりにも後遺症が残る…。そのハンディキャップを乗り越えてリハビリし車いすで高座を務めたい思いは、周囲に大変な面倒をかけることを思うと並大抵の決意ではないだろう。なんとも気が重いくなる現実だが、林家三平一門のおかみさんも、芸人仲間も必要な手助けはしてもお節介は焼かない。そうした芸人の厳しい世界だからこその優しいまなざしが、俳優・津川雅彦の軽妙なナレーションにのって心地よく伝わってくる。

かん平師匠のお母さんは、信仰生活の長いクリスチャン。日々、軽く口げんかしながらも、かん平師匠はずっと母親を見て来て昨年洗礼を受けてクリスチャンになった。洗礼を受けた教会での落語会や親睦会での歓談。教会の人たちが自宅から林家三平追善興行の寄席まで送り迎えする様子なども本編に描かれていてほほえましい。障がい者ということだからではない、頑張る人への励ましと祈りでのつながり。神様はどのようにご褒美の実を結ばせてをくださるのだろう。 【遠山清一】

監督:竹藤恵一郎 2016年/日本/85分/ドキュメンタリー 配給:オフィス・シマ 20年9月3日(土)より角川シネマ新宿ほか全国順次公開。
公式サイト http://www.nkw-kanpei.com
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