INTERVIEW:ラモーナ・S・ディアス監督(映画「ジャーニー/ドント・ストップ・ビリーヴィン」)――どんな人でも、何にでもなれる。この映画が証明するように。

ラモーナ・S・ディアス監督: フィリピンで生まれ育った女性ドキュメンタリー作家。1986年のピープル・パワーでの女性の役割をドキュメントした’Spirit Rising’が国際的にも高く評価された。イメルダ夫人を描いた初の長編映画’Imelda’は、’04年サンダンス映画祭ドキュメント部門撮影賞などを受賞。©2012 Everyman’s Journey, LLC.

80年代のハードロックシーンを席巻したバンド’ジャーニー’。1998年にスティーヴ・ペリーが脱退した後、なかなか定まらなかったリードヴォーカルにアジア人のアーネル・ピネダが招かれた。当時40歳、背の低い、黒髪のアジア人ヴォーカリストの登場に驚かされたが、スティーヴのハスキーがかった伸びやかなハイトーンの歌唱を彷彿させるさせるだけでなく、躍動感あふれるステージングはショッキングな新生’ジャーニー’を見せつけた。
そのアーネル・ピネダのサクセスストーリーを追ったドキュメンタリー映画「ジャーニー/ドント・ストップ・ビリーヴィン」が、3月16日(土)から公開。映画撮影に駆り立てたアーネルとジャーニーの魅力などについて、ラモーナ・S・ディアス監督にインタビューした。 【遠山清一】

↓ ↓ ↓ レビュー記事 ↓ ↓ ↓
http://jpnews.org/pc/modules/smartsection/item.php?itemid=254

発端はある友人からのEメールという、あまりにも日常的な一コマだった。2008年冬に届いたそのメールの標題「今まで聞いた中で最高のアメリカ大使館ビサ発給物語」が、目に付いたのだ。「私はそのメールを読み、腹の皮がよじれるほど笑った」。
内容は、アーネル・ピネダが、マニラのアメリカ大使館で「ジャーニーというバンドのリードヴォーカルのオーディションに招待された」と、渡航の理由をニール・ショーンからのメールを見せて説明した。職員は疑わしげな声で、アーネルに「’Wheel In the Sky’を歌ってみろ」と言った。アーネルが歌う懐かしいロックナンバーに、フロアーに居た人たちは聞き惚れた。その職員も「こんな話を信じるような職員は一人もいないよ。でも、僕は君にビザを発給する。君ならやってのけるさ」と告げたという。そのメールの最後に添付されていたYou Tube画像でアーネルが歌うのを見て「私は、鳥肌が立った」。
このドラマチックな出来事のはじまり。ジャーニーのマネージャーのジョン・ボラックと話し合っているうちに「私の中の映画人魂が、この素晴らしいストーリーを手放してなるものか」と燃え立った。

本作でも描かれているが、アーネルはマニラの貧しい仕立て屋夫婦の長男に生まれる。12歳の時に母親が病死したことで、弟たちは親戚に預けられ、アーネルもカトリックの教会学校キアポ・パロキアル校を自主退学した。歌えば食べ物がもらえたり、わずかでも収入になり、歌い続けていた。だが、そのような底辺層育ちから想像されるような、ひねくれたような性格にはほど遠いアーネル。妻と子どもたちを愛する素直で謙虚な人柄が、ジャーニーのロックバラードそのものに伝わってくる。
彼は、クリスチャンなのだろうか。「アーネルは、クリスチャンだと思います。でも、より個人的な精神性は彼本人にしかわからない」。
「彼は、悲惨な時代を歩んでいた時でも、常に父親や弟たちが無事かどうか気にかけていたし、少ない収入でも、それを家族で分かち合っていた。家族は助け合う精神で結び合っていたエピソードだけでも、アーネルの人間性が分かってもらえると思います」。

「このドキュメンタリーの核となるストーリーはアーネルのストーリーです」。もちろん、アーネルのすばらしいハイトーンでの歌唱にも魅了される。© 2012 Everyman’s Journey, LLC.

ジャーニーのメンバーとアーネルの関係が、とても温かいもので素晴らしかった。「バンドは、アーネルの才能を心からリスペクトしています。そのような才能に文化や人種の壁はありません。その事実に本当に心を打たれました。またバンドは、いつもアーネルの体調を気遣っていました。ツアーをするにあたりアーネルが、あらゆる気候特に初秋以降の寒くなる時期に慣れていないことを知っていたのです」。
8時間も走り続ける長時間の移動。ライブが終わるとすぐ、次の目的地へまた長時間の移動。そうした厳しい環境のなかで敢行されるツアーライブの合間に見せる、アーネルのピュアな行動にも魅かれる。監督自身が好きなシーンはと問うと、「LAのグリークシアターで携帯の電波が繋がる場所を探してうろうろしながら、外に出たところで思いがけず多くのファンに遭遇してしまうところ。あのシーンは大好きです」。

ジャーニーは、3月11日に30年ぶりの日本武道館公演。続いて大阪、広島、名古屋、金沢と来日公演中に本作が公開される。3月に舞い降りてきたジャーニーの熱い風。「この映画が日本の観客の皆様に気に入ってもらえるとうれしいです。このドキュメンタリーの核となるストーリーはアーネルのストーリーだからです。典型的なアジア人がアメリカのロックバンドのリードシンガーになるという信じられないような物語なのです。たとえジャーニーのファンでなくとも、楽しんでいただけるはずです」と、ディアス監督の言葉も熱い。

最後に、ディアス監督にとって映画の魅力とは何かを聞いた。「もっとも興味深いのは、信じられないような物語を語る素晴らしいキャラクターです。物語を語るために有名人である必要はありません。どんな人でも、何にでもなれる。この映画が証明するように」。ほんとうに、人間を愛している映画人と出会えた。

◇   ◇
映画「ジャーニー/ドント・ストップ・ビリーヴィン」(2012年/アメリカ/105分/原題:Don’t Stop Believin’: Everyman’s Journey 配給:ファントム・フィルム)は、2013年3月16日(土)より新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー。
公式サイト:http://journey-movie.jp/